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メルツ氏、所得税制度改革案を提出

  キリスト教民主同盟 CDU の幹部会は113()、メルツ党議員団副団長が提出した所得税制度改革案を承認した。これは、現行の複雑なドイツ所得税制度を大幅に簡略化した新しい所得税制度案である。メルツ氏は、100以上の法律と約96000の行政規則から成る現行の租税制度はもはや修正することができないので、全く新しいアプローチを提言したと語った。新しい所得税制度は納税者に450億ユーロの負担軽減と350億~400億ユーロの負担増(租税上の優遇措置の削減・廃止など)をもたらすので、納税者の実質負担軽減は50億~100億ユーロになるという。

 メルツ氏の抜本的なドイツ所得税制度改革案の主な内容は次の通り。

     すべての納税義務者は所得税暗証番号(SteuerPIN)を取得する。その結果、匿名のデータ伝送が可能になり、賃金と資本収入の課税が大幅に簡略化される。

     毎年の所得税申告が税務署の電子納税申告で行われる。税務署は、所得税暗証番号で納入された租税に基づいて、納税義務者の電子納税申告案を作成する。納税義務者は、さらなる収入がない場合には、それに同意するだけでよい。その結果、90%~95%の納税申告がこの手続きで処理できる。

     所得税率は12%、24%、36%の3段階に分けられる。最初の段階の税率(年間所得8000ユーロ以上)は12%で、課税される年間所得16000ユーロ以上の段階は税率24%、課税される年間所得40000ユーロ以上の段階は税率36%とする(すなわち、課税される年間所得が41000ユーロの場合、16000ユーロまでの段階には税率12%、1600140000ユーロの段階には税率24%、4000141000ユーロの段階には税率36%が適用される)。また、一人当たりの基礎控除を一律8000ユーロとする。それに加えて、被用者控除は一人当たり1000ユーロとする。(子供二人の共稼ぎ夫婦の場合の控除総額:8000ユーロ X 4 人+ 1000 ユーロX 2人 = 34000ユーロ)

     3段階の所得限度は2年ごとに、インフレ動向に基づいて調整される。

     家族と夫婦を助成するために、子供にも一律8000ユーロの基礎控除が適用される。必要な場合には、さらに児童手当が支給される。分割課税(夫婦に対する所得課税の方法)は引き続き適用される。

     個人世帯は使用者として認められる。

     配当支払いでない資本収入は、自動的に、前納として一律24%の租税分割払が徴収される(24%の源泉課税)。最終的には、資本収益は本人の所得の税率で課税される。

     土地、賃貸している不動産、有価証券のような経済財からの売却益は、納税義務がある。但し、自らが使用している不動産のような個人的な領域にのみ帰属する財の売却益は、納税義務がない。売却益の税率は18%とする。

     租税上の優遇措置や控除が大幅に削除ないし廃止される(議員の給与の免税、日曜祭日・深夜手当て、退職金、補助金、チップ、スト手当て、通勤交通費の控除など)。

     資本会社のような団体(法人)の税率は一律36%とする。売却益の課税は原則として18%とする。企業の損失と利益の差引勘定は従来通り認められる。

     利益収入は、家賃・用益賃貸借の収入も含めて、企業活動からの収入に統合される。

     所得税法では、収入の種類は4つのみとする。すなわち、企業活動からの収入、自営でない活動からの収入、資本財産からの収入、その他の収入(年金収入など)。

     もっぱら老後のための支出(年金保険料など)は免税とするが、老後の収入(年金受給など)は課税される。

 この所得税制度改革案は CDU 党内だけでなく、他の党でもポジティブに評価されている。シュレーダー首相は、議論に値する要素があるとして、CDU/CSU がこのコンセプトで合意できるかどうかを見守ると語った。ノルドライン・ヴェストファーレン州のシュタインブリュック州首相は、「正しい方向性にあるが、短期的に実現することはできない」と見ている。また、自由民主党(FDP)財政スポークスマンのオットー・ゾルムス氏は、FDP が以前から主張していた租税改革にようやく CDU も本腰を入れたとして、メルツ氏の租税改革案が将来の CDU/CSU/FDP 連立政権の基盤になると語った。

 経済研究所もこのコンセプトを支持しており、ドイツ経済研究所 DIW のバッハ氏は、「このコンセプトは原則的に正しい方向にある」と評価した。それに対して、社会民主党 SPD の一部と労働組合は、「社会的市場経済からの別れ」だとして、社会的公平性の欠如を批判している。被用者の一方的な負担になっているという。CDU/CSU 内でもコンセプトの一部(特に、通勤交通費控除の廃止、営業税の廃止など)の変更を求める声が聞かれる。

 メルツ氏の所得税制度改革案は党内で審議された後、12月初旬の CDU 党大会で決定される予定である。

2003年11月3日)

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