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EU財務相理事会、独仏に対する制裁手続きを停止

  欧州連合の財務相理事会(Ecofin)は1125日(火)、ドイツとフランスに対する制裁手続きを停止すると共に、欧州委員会が要求する緊縮予算追加履行義務を否決した。その結果、ドイツは欧州委員会が要求する追加履行義務(2004年にさらに60億ユーロ、2005年に20億ユーロの歳出を節減する)を遂行する必要がなく、制裁金も科されない。(20031124日の主要ニュースを参照)

 財務相理事会の決定によると、ドイツは景気調整済み財政赤字を2004年に0,6%ポイント、2005年に0,5%ポイント低下させなければならない。ドイツとフランスは、構造的財政赤字を削減する義務を負い、2005年までに財政赤字をマーストリヒト条約の「安定協定」の上限 3%以下にすることを約束する。但し、この任意の自主義務は一定の経済成長(欧州委員会の成長予測:ドイツの場合、2004年は1,6%、2005年は1,8%)の達成に依存する。経済が欧州委員会の成長予測以上に成長した場合には、その分を徹底して財政赤字削減に投入する。この任意の自主義務は拘束力がなく、制裁金も科されない。欧州委員会はアイヒェル財務相のこの妥協案を拒否していた。       

 財務相理事会の決定には3分の2の賛成が必要で、オーストリア・オランダ・スペイン・フィンランドだけが反対した。財務相理事会は、マーストリヒト条約の「安定協定」の番人である欧州委員会を2回も無視したことになる(2002年初頭の欧州委員会の初期警告と今回の制裁手続きの停止)。

 欧州各国は、財務相理事会が欧州委員会の提案を退けて、独仏に対する制裁手続きを凍結したことを厳しく批判すると共に、マーストリヒト条約の「安定協定」の有効性と存続そのものを懸念している。ソルベス委員は、財務相理事会の決定はマーストリヒト条約の「安定協定」の精神と規定に則るものではないとして、この政治決定の影響は広範囲に及ぶだろうと語った。今後の対応を検討するが、場合によっては、欧州裁判所に訴えることも有り得るとしている。

 欧州中央銀行は、財務相理事会の決定は欧州財政政策の信憑性を脅かすもので、重大な危険をはらんでいると厳しく批判した。オーストリアのシュッセル首相は、この「堕罪」はユーロ圏の政策の信憑性を損なったと評価した。「安定協定」を厳守すべく、大国(独仏)よりも厳しい緊縮財政を実施してきたオーストリアやオランダなどの小国は、大国の傲慢な態度に大きな不満を表明している。経済専門家は、今回の決定は短期的にはユーロにネガティブな影響を及ぼさないが、長期的にはユーロの安定を損なう可能性があると見ている。

 アイヒェル連邦財務相とシュレーダー首相は、思慮分別のある妥協だとして、財務相理事会の決定を歓迎した。マーストリヒト条約の「安定協定」は存続し、損なわれていないという。それに対して、野党と経済研究所、経済界は、マーストリヒト条約の「安定協定」の終わりを意味するとして、ユーロに及ぶネガティブな影響を警告した。

 一方、「安定協定」の改革を巡る論争がすでに始まっている。フランス、イタリア、ドイツが「安定協定」の改革を求めているほか、オーストリアのシュッセル首相も安定協定改善の時期が熟しているとして、信頼できる規則が必要だと語った。また、欧州中央銀行の金融政策(公定歩合)への影響が注目されている。

 今回、欧州大国のドイツとフランスが自国の利益を強行に貫いたことは、今後の欧州憲法論争に多大の影響を及ぼしそうだ。特に、オーストリアやオランダなどの小国と新たに加盟する10カ国の独仏に対する不信感が一層強まった。オランダの財務相は、多くの加盟国は自国の運命を大国の手にゆだねようとはしないだろうと語った。

2003121日)

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