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SPDとCDU/CSU、移民法妥協案で合意

 シュレーダー首相(SPD)とメルケルCDU党首、シュトイバーCSU党首は5月25日(火)、党首会合で移民法に関する妥協案で合意した。妥協案は、高学歴者や自営業者、労働力が不足している部門の専門者のドイツへの移住を容易にする一方で、安全保障問題に関する規定(危険な外国人の国外退去など)を厳しくしている。

  移民に関する妥協案の主な内容は次の通りである。

     高学歴者: 高学歴者は、職場があることが証明され、その雇用が労働市場にネガティブな影響を及ぼさない場合には、即時、無期限の居住許可を取得できる。ここでいう高学歴者とは、年俸が84000ユーロ弱以上(法定疾病保険の保険料算定上限の2倍)の学者、重要な職務にある教師、スペシャリスト。

     グリーンカード: 党首会合では討論の対象にならなかった。従って、グリーンカードは規定通り、2004年末に失効する見通しである。

     自営業者: 自営業者は、特に地域の需要がある場合、あるいは重要な経済上の利益がある場合に限り、最初は3年間の期限付きで滞在許可を取得する。但し、最低100万ユーロを投資すること、資金調達が自己資本ないしクレジットで保証されていること、最低10人の職場を創出することが前提となる。経済にポジティブな影響を及ぼすことも求められる。また、自営業者は45歳以下でなければならない。生活費が保証されていれば、3年後に長期滞在許可を取得できる。

     労働力不足の部門における資格のある労働力: 2004年5月1日に欧州連合に加盟した国の出身者で、資格のある(約3年間の職業教育を受けている)人は、特定の職業、事業所、地域に限定できる期限付き滞在許可を取得する。この被雇用者はドイツ人被雇用者よりも悪い条件で雇われてはならない。また、滞在許可付与前に、その職場にドイツ人を雇用できないかどうかという必要性の検査が行われなければならない。個々の検査は従来の法律に基づく。

     労働力不足の部門における資格のない労働力: 資格のない(職業教育を受けていない)労働力には、現行の法律同様に、特別な例外規定が必要である。現行の法律では、必要性の検査の後、飲食・旅館業における特定の仕事に従事する人や季節労働者に対して、期限付き滞在許可を付与している。

     大学生: 大学生は2年間の期限付き滞在許可を取得する。滞在許可は大学卒業までであるが、就職先を探すために、卒業後1年間の更新が可能。

     職業訓練生: 職業訓練生は、職業訓練期間を対象に期限付き滞在許可を取得する。但し、労働力不足の部門における労働力同様に、必要性の検査が前提になる。

     届出義務: 欧州連合加盟国出身者は、滞在許可を申請する必要がなく、届出だけを義務付けられる。

     滞在許可: 従来の5種類の滞在許可が2種類、すなわち、期限付き滞在許可と無期限の居住許可になる。無期限の居住許可は5年後に取得できる(これまでは8年後)。すべての規定は2つの法規命令、すなわち滞在命令と雇用命令で規定される。

     労働許可: 滞在許可には就業資格も含まれる。これまで、滞在許可と労働許可は二つの異なる行政手続きで申請しなければならなかったが、その規定がなくなる。

     子供の後続移住: 庇護者、難民の子供だけでなく、高学歴者の子供(18歳以下)も後続移住の権利を有する。

     外国人の同化(ドイツ語コースなど)のための費用は連邦が負担する。ドイツ語コースに参加しない外国人には制裁が科される。

 次に、安全保障問題に関する妥協案の主な内容は次の通りである。

     憎悪説教者と有罪判決を受けた密入国共犯者の国外追放が容易になるほか、外国人テロリストと過激派集団に対する防衛のために、入国、追放、監視、帰化の規定が厳しくなる。暴力を駆り立てるイスラム教説教者のような説教者に対しては、裁量追放が導入される。また、1年以上の自由刑を科された密入国共犯者は強制的に追放される。「事実に基づく危険予測」に基づいて外国人を追放できる(例えば、アフガニスタンのアルカイダの訓練キャンプに参加した者)。

     容疑者が出身国で死刑ないし拷問を受ける危険があるために、強制退去できない場合には、移転の自由の制限と通信の禁止を科すことができる。

     無期限の滞在許可と帰化を付与する前に、外人局は憲法擁護庁に照会しなければならない。

 CDU/CSUが要求する安全保障問題でシュレーダー首相が大きく譲歩したために、3党は妥協案で合意に至った。両院協議会では、緑の党が「妥協の余地なし」として、一方的に交渉を中断したことから、移民法の成立が危ぶまれていた。各政党は移民法に関する妥協案に満足感を示している。経済界はもっとフレキシブルに外国人専門者の移住を容易にする移民法を望んでいたが、高い失業率を鑑み、移民法を巡る争いが終わり、移民法の成立見通しが立ったことを歓迎している。

 シリー連邦内務相(SPD)とミュラー・ザールランド州首相(CDU)、ベックシュタイン・バイエルン州内務相(CSU)が6月17日までにこの妥協案に基づいて移民法案を作成し、両院協議会に提出する。7月初頭には連邦議会と連邦参議院が両院協議会の法案を採決する予定である。安全保障問題でCDU/CSUに妥協するのに反対していた緑の党は法案作成から外された。SPDは緑の党と意見調整済みだとしている。

 シュレーダー首相とシリー連邦内務相は、これ以上交渉する余地はないとして、この妥協案が最終案であることを強調しているが、CDU/CSU党内では、カプラン問題(トルコ人のイスラム教過激派説教者カプランの追放を巡る問題)を理由として、安全保障問題に関する妥協案をさらに厳しくするよう求める声が大きくなっており、移民法案の成立はまだ確実ではない。

20046月7日)

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