オバサンの独り言 いよいよバイエルン州でも夏休みが始まった。炎天下で交通渋滞する高速道路、外国で夏休みを過ごす家族連れで混雑する空港は夏の風物詩である。 もう一つの夏の風物が “blauer Brief” と呼ばれる、夏休み直前に保護者に郵送される落第通知書だ。「落第」は19世紀に生まれたドイツの古き良き伝統である。できるだけ均質のグループで学んだ方が、生徒の学力が向上するという考え方がその背景にある。 ところが、PISA調査でドイツの生徒の学力低下が明らかになったことから、落第制度の見直しと成績の悪い生徒に対する個別指導の必要性が指摘されるようになった。落第制度の緩和、全日制による個別指導の強化、夏期講習の提供などが検討されている。 数学などの理系科目で「1」をとっているにもかかわらず、宗教と歴史で「5」をとったがために落第しなければならなかった生徒の話を聞いたことがある。彼はこの2教科のために貴重な1年を失ったのである。彼の軽率さを責めることは簡単だが、柔軟性のない落第制度の限界を感じる。 先生が嫌いだから勉強しなかったという子供もいるだろう。「4はとれるさ」と軽く見て油断したために「5」をとってしまった子供もいるだろう。特に思春期・反抗期の子供たちは精神的に不安定である。復活のチャンスを与えずに落第させる現行の制度には改善の余地があると思う。スポーツにも敗者復活戦があるではないか。 バイエルン州は新学年度から、落第点をとった生徒に12月半ばまで猶予期間を与えることにした。この期間に奮発してがんばれば、学年を繰り返す必要がない。このチャンスを活かせない生徒が落第するのは仕方あるまい。 15歳の生徒の4分の1が最低1回は落第しているという統計を見ても、ドイツの教育制度に欠陥があることは明らかである。子供の学力を無視して、ギムナジウムに入れる親。塾や家庭教師のブーム。落ちこぼれと外国人子弟の溜り場化しているハウプトシューレ。生徒の学力格差を無視した授業。例を挙げれば切がない。ドイツが誇る教育制度も転機を迎えたようだ。 学校間の競争がなく、生徒の学力に応じた授業ができない現状では、生徒の学力格差が開くばかりである。だから、生徒の能力と要求に応じた個別指導の強化は転機の第一歩といえる。但し、成績の悪い生徒を支援する個別指導だけでなく、優秀な生徒を奨励する個別指導も忘れてはならない。そうでなければ、ドイツは次のPISA調査でも良い成績は期待できないだろう。 (2004年8月2日)
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