オバサンの独り言

 ノルドライン・ヴェストファーレン(NRW)州議会選挙で大地震が起こった。39年間政権を牛耳っていた社会民主党(SPD)が惨敗し、SPDの最後の牙城が崩壊した。しかも、州レベルでは SPD と緑の党の連立政権モデルはもう存在しない。シュレーダー首相とミュンテフェリング党首が背水の陣を敷き、現状打開策として「総選挙前倒し」という奇襲攻撃に出たのは意外というよりも当然の帰結といえよう。それほど事態は深刻なのである。

 戦後最高の失業者数、EU 最低の経済成長、財政赤字の増大、教育水準の低下、社会保障制度破綻の危機などなど、市民の不安と不満は募るばかりだ。優等生から劣等生に落ちこぼれたドイツ人の堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題だった。1998年にコール政権が大敗してシュレーダー政権が誕生したように、NRW 州の政権交代は起こるべくして起こった、健全なプロセスなのではないか。

 政権交代劇を見るにつけ、ドイツの民主政治は機能していると思う。どんなに「社会的公平」を叫んでも、イデオロギーゆえに将来性のない産業部門や風力発電に莫大な補助金を注ぎ込んでも、「みんな平等」の原則で総合制学校(Gesamtschule)を促進しても、大会社の役員やファンドマネージャーを批判する反資本主義論争を 煽っても、失業者と社会扶助受給者が増え、教育水準が低下し、不況が続けば、市民の信頼を得ることはできず、選挙で勝つことはできないということを日和見主義的な政治家たちは肝に銘じるべきである。市民が求めているのはイデオロギーではなく、安定した生活なのだ。

 先日、連邦議会が EU 憲法を採択したが、当日の朝、テレビのジャーナリストが国民の代表者として採択する議員たちに EU 憲法について質問していた。EU の意思決定方式は制定交渉の焦点になっていたほど重要な事項なのに、テレビ討論会などでえらそうに話している政治家たちがだれも意思決定方式について正しく回答できなかったのには呆れてしまった。この議員たちは EU 憲法の内容を十分に把握することもなく、採択したのである。

 これが現在のドイツの政治的情況である。今年9月18日に総選挙が行われる見通しとなった。一時的な雰囲気に左右されることなく、政治家の日和見主義的言動に惑わされることなく、冷静に熟考した上で、各人がドイツの将来のために貴重な一票を投じて欲しいと思う。

2005年5月24日)

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