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CDU/CSU、選挙公約を発表

 キリスト教民主同盟(CDU)のメルケル党首とキリスト教社会同盟(CSU)のシュトイバー党首は7月11日(月)、CDU/CSUのマニフェスト「ドイツのチャンスを活かす。雇用、経済成長、安全保障」を発表した。その主要事項は次の通りである。

        雇用: 事業所の従業員組織を法的に保護する。従業員と使用者は、雇用確保や雇用創出を目的とする場合には、労働協約法から外れて、個別契約上の申し合わせをすることができる。事業所委員会(従業員を代表する組織)の同意と従業員の3分の2の同意があれば、労働協約とは異なる申し合わせが有効となる。また、解雇保護法をフレキシブルにする。従業員数が20人以下の事業所では、新規採用者には解雇保護法の適用が停止する。他の事業所では、新規採用者には2年後に解雇保護法が有効になる。失業手当 II 受給者は最初の2年間、労働協約賃金よりも最高で10%低い賃金で雇用することができる。

        失業保険: 2006年1月1日に失業保険料率を現在の6,5%から4,5%に2ポイント引き下げると同時に、付加価値税率を現在の16%から18%に2ポイント引き上げる。付加価値税引き上げは主としてこの賃金付随コスト削減の資金源となる。但し、食料品や本などを対象にした7%の付加価値税率は「社会的バランス」の理由から変わらない。また、連邦雇用庁の構造改革を実施し、すべての労働市場政策上の措置を見直す。非効率で、効果のない措置は廃止する。例えば、Ich-AG 措置を廃止する。失業手当受給期間は失業保険料を納めた期間に基づく。連邦雇用庁におけるコスト削減も賃金付随コスト削減のための資金源となる。

        租税: 2007年1月1日に所得税・法人税改革が発効する。賃金・所得税では、最初の段階の税率が12%(現在は15%)、最高税率が39%(現在は42%)とする。その資金源として、様々な税法上の優遇措置、控除、例外規定を廃止ないし削減する(マイホーム控除の廃止、通勤交通費控除の削減、日曜祭日・深夜手当て控除の削減など)。基礎控除は一人当たり一律8000ユーロとする(子供も含まれる)。その他の一括控除を考慮すると、子供2人の4人家族では、年間約38200ユーロの所得が控除される。分割課税(夫婦に対する所得課税方法)は保持する。企業の法人税を22%に引き下げる。営業税は保持する。

        エネルギー: 再生可能エネルギーを促進するが、一部法外な補助金は削減する。再生可能エネルギーの電力消費全体に占める割合を最低12,5%にすることを目標とする。原子力発電所の運用期間は各施設の安全水準の保証のみに基づいて決定する。運用期間の延長により発生する利回り増加分は電力価格引下げに反映されなければならない。厳しい財政上、環境税はさしあたり廃止できない。

        家族: 一人当たり基礎控除額を一律8000ユーロに引き上げ、子供の基礎控除額8000ユーロを導入する。2007年1月1日からは年金保険料割引として、2007年1月1日以降に生まれた子供に対する月額50ユーロの子供ボーナスを導入する。保健改革では、すべての子供の保険料を無料とし、そのコストを税収入で賄う。

        疾病保険: コスト補償する一律の疾病保険料を導入する。低所得者の保険料不足分は税収入で賄う。使用者の疾病保険料分担金の割合を固定し、疾病保険コストの動向から切り離す。年金受給者の場合は、年金保険機関が使用者の負担分を支払う。介護保険は積み立て方式に切り替える。

        年金: 年金保険料率は長期的に現在の水準を維持する。企業年金と個人的な老後の備えを重視する。

        テロと犯罪: テロからの防衛のために連邦国防軍が国内で活動することを認める。人身売買から女性を守るために、強制売春婦の客を処罰する。青少年犯罪法を厳しくする。DNA分析を標準とする。

        研究開発: 研究開発費を年間10億ユーロ引き上げる。新しいテクノロジーを促進する。

        外交: トルコのEU加盟に反対するが、「特権パートナーシップ」を支持する。米国との関係を改善する。国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指さない。

  CDU/CSUマニフェストの重点は雇用と経済に置かれており、経済成長への方向転換を約束している。職場を創出するか/脅かすかを基準に各措置を見直す方針で、賃金付随コスト削減による雇用創出を目指している。その資金源としては付加価値税引き上げと連邦雇用庁のコスト削減を計画している。極めて厳しい財政状況では納税者の実質負担軽減の余地は少ないとして、租税制度の簡略化をまず優先する。メルケルCDU党首は、「賃金付随コストを削減するためであれば、間接税の引き上げは正当化される。現在の厳しい財政状況では他の選択肢はない」と語った。

 それに対して、CDU/CSUとの連立政権を目指している自由民主党(FDP)のヴェスターヴェレ党首は、連立政権交渉で付加価値税引き上げを阻止する意向を明らかにした。新しい租税制度で多くの補助金や例外規定を廃止すれば、付加価値税を引き上げる必要はないとしている。また、連邦経営者連盟のフント会長は、付加価値税引き上げによる増収分を賃金付随コスト削減のためにだけ投入するのではなく、一部を州政府に配分して州の赤字穴埋めに用いる計画である点を批判した。小売業と手工業も付加価値税引き上げに反対しており、CDU党内でも反対する声が聞かれる。

2005年7月18日)

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