オバサンの独り言

 

 11月は気象観測が始まって以来の「暖秋」だったが、さすがに12月になると、クリスマス市のスタートに合わせるかのように寒くなってきた。と思いきや、また15度前後の暖かい日が続いている。零下の寒さがないと過ごしやすいし、エネルギー節約に もなるのだが、グリューワイン(赤ワインに砂糖や香料を加えて熱した飲み物)を飲む雰囲気が今一つである。

 クリスマス一色の市内は買い物客で賑わっている。ドイツ経済は好調 のようで、国の税収入は増え、11月の失業者数は4年振りに400万人の大台を下回った。専門家によると、消費者の購買意欲も高まっているそうで、小売業はクリスマス商戦に大きな期待をかけている。

 しかし、統計上は好景気なようだが、どれだけの人がその恩恵を受けているのだろうか。

 企業は国際競争で生き残るために合理化に努める のが常である。大幅な人員削減、不振部門の売却、生産拠点の外国移転などを徹底した企業が収益を高め、その株式が上昇する。それに比例して、失業者が増える。

 不振が続く事業部門の再建に失敗したあるドイツ大手企業は、あるアジア企業に多額の「持参金」まで付けてその事業部門を売却した。売却契約を締結した後の記者会見で、大手企業の社長は、「従業員の職場が確保される最善の解決策だ」と誇らしげに述べた。まるで、従業員のためを思って売却したかのように。

 ところが、売却された事業部門は1年後に倒産し、従業員は職場を失った。アジア企業はこの事業部門が持参した多くの特許と商標には関心があったが、ドイツで生産する気は初めからなかったようである。

 時を同じくして、この大手企業の監査役会が取締役の報酬の30%引き上げを決定していたことが明らかになった。政治家からもごうごうたる非難を受けて、社長は渋々と報酬引き上げの1年間据え置きを発表しなければならなかった。

 事業再建に失敗し、信頼できるパートナーを見つけることもできなかったのは明らかな経営ミスであるにもかかわらず、売却のお陰で収益が上昇すれば、経営陣の報酬は急増する。3%や5%の値ではなく、二桁単位で上昇するのである。極端な言い方をすれば、首切りをすればするほど、経営陣の報酬が上昇するという構図である。

 会社の長期的発展ではなく、短期的な収益増だけに汲々としているトップマネージャーが多くなった。伝統ある技術の継承や研究開発なんかするよりも、企業買収した方が手っ取り早いという近視眼的な考え方が横行している。これでは技術大国といわれたドイツの行く末が心配になる。

  景気が上昇し、失業者が減少する、大変喜ばしい展開になっている。従業員は不景気の時には賃上げを断念し、賃金引下げも受け入れて我慢してきたのだから、景気が良くなれば、企業はトップマネージャーだけに高額なボーナスを払うのではなく、一般従業員にも利益の一部を還元するのが当然だろう。

  好調な業界における賃上げを求める声が政治家の間でも聞かれ始めたら、早速、経営者団体は従業員の「行き過ぎた要求」を警告した。経営者は従業員に節度を求めているのである。では、経営ミスをした経営陣の報酬の30%引き上げは「行き過ぎた要求」ではないのだろうか。トップマネージャー の節度と従業員に求める節度は文字通り「桁違い」のようである。

2006年12月5日)

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