オバサンの独り言
最近、ドイツでも日本でも「少子高齢化社会」とか「人口減少時代」という言葉をよく聞くようになったが、政治家もようやく家族政策の重要性を認識し始めたようだ。連日のように家族政策が新聞紙上で話題になっている。 イースターの休みに、何気なく本棚から樋口恵子さんの本を取り出して頁をめくっていたら、止められなくなってしまい、20年ぶりに再読した。この本の第一刷発行は1978年である。女に生まれるということ、女の子の育て方、男の子の育て方、人生80年時代にそなえての心構えを28年も前に書いた本なのに、2006年の新刊書と言ってもおかしくないほど時代の差を感じさせない。それほど社会が変わっていないということか・・・。 日本ではこの28年間に男女共同参画社会基本法ができた。女性の社会的地位は向上してきたし、日本人一人ひとりの意識も少しずつ変わってきたと思う。しかし、企業を含む社会全体の意識改革にまでは至っていない。何世代にも亘ってゆっくりとしか浸透していかないものなのだろう。 毎日新聞の読者からの投稿シリーズ「ああ夫」を読んでいると、切実にそう思う。家事をしない、「子供以上に手の掛かる」、「大きな子ども」のような夫がなんと多いことか。そんな夫を結構楽しんで世話している妻たちが面白おかしく脚色していることを差し引いて考えても、「仕事と家庭の両立」には程遠い。日本特有の現象なのかもしれないが、「子供は夫ひとりでたくさん!」という女性が増えれば、少子化問題は一層複雑になるのではあるまいか・・・。 では、ドイツはどうだろうか。現在、父母手当ての導入を巡ってキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)内で激しい論争が起こっている。フォン・デア・ライエン連邦家族相の計画では、父母手当てが2007年1月1日以降に生まれた子供を対象に導入される。その金額は実質所得の67%、最高で月額1800ユーロ。母親(あるいは父親)だけが育児休業する場合には10ヶ月間支給され、父親(あるいは母親)も最低2ヶ月間育児休業する場合には全部で12ヶ月間支給される。つまり、父親も育児休業しないと、父母手当てを12ヶ月間もらうことはできない。 CDUとCSUの保守的な男性たちは、「だれが育児休業すべきかの決定に国が介入すべきではない」として、家族相の計画に猛反対している。「決定の自由」、「選択の自由」と言えば、リベラルに聞こえるが、「男が育児休業なんてとんでもない!」というのが本音なのではあるまいか。「女性が育児休業するのが当たり前」の世の中であることを承知の上での「選択の自由」は綺麗事でしかない。 「選択の自由」は都合のいい言い訳になる危険性を孕んでいる。初めから A しか選択できない状況に置かれている人に A と B の選択肢を示して「自由に選べ」というのは不公平だ。この不公平を是正するためには、B も選べる状況を提供しなければならない。 世論調査によると、大半の夫婦は子供が生まれるときに共働きである。育児に参加したいと考えている若い父親が多いという。「仕事か家庭か」の選択を女性だけに迫るのではなく、男性も選択できるようにしなければ、公平な「選択の自由」など有り得ない。父親が育児休業したいと思っていても、それを阻む壁が企業にも社会にもあるのが現状だ。制度化しない限り、その壁を取り除くのは難しいのではないだろうか。 メルケル連邦首相は、初めて「父親の育児休業」を取り入れた父母手当て制度をドイツ家族政策における「コペルニクス的転換」と高く評価している。ドイツにおいても父親が 2ヶ月間育児休業するということはそれほど大きな意識改革なのである。 (2006年4月25日)
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