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連邦内閣、差別禁止法案を閣議決定

   連邦政府は5月10日(水)、差別禁止法案を閣議決定した。同法案が成立すれば、雇用及び職業と民法領域における差別を禁止するEU指令が国内法に実施されることになるが、EU指令を超える厳しい内容となっている。同法案は連立与党内で承認された後、連邦議会に提出される。連邦参議院の同意を必要とする。(2004年12月22日と2005年6月20日のニュースを参照)

 法案の要旨は次の通りである。

     労働法領域(雇用及び職業)と民法領域(日常生活の大衆ビジネス(例えばレストランやホテル、デパートとの契約)と民間保険)における人種、性別、民族、障害、年齢、同性愛、宗教、世界観ゆえの差別が禁止される。但し、既存のハンディキャップを調整するための特別促進措置(例えば、女性の促進、障害者のための措置)は従来通り認められる。EU指令は、民法領域(大衆ビジネス)では、人種、性別、民族による差別の禁止のみを要求しており、労働法領域(雇用及び職業)では、性別、人種、民族、宗教、世界観、年齢、障害、同性愛による差別を禁止している。

     労働組合と事業所委員会は、差別されているが、自らは訴訟を起こしたくない職員の代理人として訴訟を起こすことができる(団体訴訟権)。但し、損害賠償請求権は譲渡できない(団体への譲渡権はない)。

     教会条項があり、使用者としての教会は採用における差別禁止から免除される。教会とそれに属する施設(カリタスなど)は宗教問題で自己決定権を保持する。例えば、教会は、それが自己決定権ないし仕事の種類に基づいて正当化される場合には、他の宗教を信仰する人を採用する必要はない。

     連邦家族・高齢者・女性・青少年省に連邦差別禁止相談所が設置され、当事者の相談、支援を行う。

 キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)内では、前政権の法案を大筋において変えることなく受け入れたメルケル連邦首相とカウダー党議員団長を批判する声が大きい。それに対して、ポファラCDU幹事長は、前政権の法案を16ヶ所変更していることを指摘して、妥協案は「原則的に正しい」と弁護した。

 前政権の法案はEU指令よりもはるかに厳しい内容であるために、CDU/CSUは経済政策上の失策として厳しく批判していた。そこで、連立協定ではEU指令を1対1で国内法に実施することで合意しており、メルケル首相も施政方針演説でEU指令の1対1の実施を強調していた。

 差別禁止法案はCDU/CSU首脳陣とSPD首脳陣が税制改正法案との相互駆け引きで妥協した結果である。しかし、CDU/CSUがSPDに大幅に譲歩した形になったため、CDU/CSUでは首脳陣に対する不満が大きく、CDU/CSUの信用性が失われることを懸念している。CDU/CSU議員団とCDU/CSUの州は連邦議会と連邦参議院で法案の変更を求めていく意向である。

2006年5月15日)

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