オバサンの独り言

 

 サッカーワールドカップの開幕まであと十日足らずとなり、ミュンヘン市内の準備も急ピッチで進んでいる。W杯フィーバーが感じられるようになってきた。サッカーの試合だけでなく、様々なイベントも計画されており、盛大なお祭りになることだろう。

 世界中からサッカーファンがドイツに集まってくる一方で、サッカー一色のドイツから外国へ脱出する人たちも多いらしい。サッカーに興味のない女たちはサッカー漬けになった男たちを尻目にW杯逃避旅行を楽しむのだそうだ。そんな女たちをターゲットにした旅行でも儲けようと、旅行会社は抜け目がない。

 ドイツはフーリガン対策とテロ対策には万全を期しているといわ れるが、開幕直前になってネオナチ対策 が論議されている。そのきっかけになったのが前政権のスポークスマンだったハイエ氏の発言だ。黒人が旧東独の特定の都市に行くことを警告したのである。すでにアフリカでは黒人の「No-Go-Areas」を記したW杯地図が検討されているという。

 時を同じくして、トルコ系ドイツ人の政治家が東ベルリンでネオナチらしき者に襲われるという事件が起こったため、旧東独におけるネオナチの問題が再びクローズアップされている。ショイブレ連邦内務相が発表した憲法擁護報告書によると、極右グループの重点は旧東独にあり、人口10万人当りの極右グループによる暴力行為件数はザクセン・アンハルト州とブランデンブルク州が最も多く、次がチューリンゲン州とザクセン州だという。

 旧東独の政治家は「No-Go-Areas」発言に激しく抗議しているが、極右グループによる人種差別的暴力行為が旧東独に多い事実は否定できない。人種差別的暴力行為は最近急に増えた新しい現象ではなく、長年に亘る日常的出来事である。「ドイツには No-Go-Areas などない」と主張する政治家はこの現実を無視している。

 しかし、「No-Go-Areas」という痛烈な批判に驚いて、旧東独の政治家と市民が東西統一後に課された宿題を怠ってきた事実を再認識することになれば、不幸中の幸いといえるかもしれない。過去15年間、西から東へ莫大な資金が投入されたにもかかわらず、破綻した経済の建て直しは成功していない。

 外国人が「No-Go-Areas」に投資するはずはなく、投資がなければその地域経済は衰退する。その鬱憤を晴らすために、外国人に対する弱い者いじめをすれば、外国人はますます敬遠する。旧東独はこの悪循環を打開しなければならない。DDRメンタリティーから脱皮しなければならない。西と同じ賃金、生活水準を要求するのであれば、西と同水準のモラルと治安が求められるのは当然ではないか。

 国を挙げてのW杯を直前にして、体面を繕うことばかり考えても問題は解決しない。「No-Go-Areas」に関する情報を提供して、外国人の注意を喚起するのはW杯開催国の責任だと思う。

 先日はベルリンで16歳の少年が次々に通行人をナイフで刺して、30人以上が負傷するという通り魔事件があった。W杯期間中の暴力行為に対する不安は隠せない。ミュンヘンの消防と救急の担当者に会う機会があり、警察も消防も救急隊もバイエルン州内のスタッフを総動員して警備にあたる体制になっているという頼もしいお話を伺ったが、ベルリンの通り魔事件が示すように、100%の保証はない。各自が用心して行動することが最大の護身だと思う。

 事前の心配がすべて杞憂に終わることを願ってやまない。

2006年5月29日)

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