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連立与党、疾病保険改革の基本方針で合意

 連立与党(キリスト教民主・社会同盟CDU/CSUと社会民主党SPD)は7月3日(月)、保健基金の導入/税金からの資金調達/子供無料保険を中核とする疾病保険改革基本方針で合意した。この会期中は保健改革のための租税引き上げはない。保健基金の導入により、法定疾病保険制度が大幅に改造される。基本方針の要旨は次の通りである。

     保健基金の導入: 2008年に導入される保健基金が法定疾病保険料徴収機関になる(年間約1450億ユーロ)。公法上の法人で、連邦保険局の監査を受ける。使用者と被雇用者は同額の基本保険料を保健基金に納める。被雇用者は従来通り、特別保険料(算定上限(3562,50ユーロ)までの所得の0,9%)も納める。連邦は税金から連邦補助金(現在42億ユーロ)を保健基金に納める(2008年は15億ユーロ、2009年は30億ユーロ)。保健基金は支出の90~95%を保険料で賄わなければならないため、税金からの補助金は限定される。この補助金は子供の無料保険に充てられる。保険料率は法律で規定される。法定疾病保険金庫は2008年の保健基金スタートに備えて、来年には債務ゼロにしなければならない。

     法定疾病保険金庫: 保健基金は被保険者のための一括保険料(一人当たり同額)+年齢・リスク割増料を法定疾病保険金庫に払う。保険金庫は、基金が払う一括保険料で賄いきれない場合には、不足分を補整しなければならない。コスト削減でも補充できない場合には、被保険者から追加保険料(一括額あるいは所得に応じた金額)を徴収する。但し、この追加保険料は所得の1%を超えてはならない。黒字を出している保険金庫は保険料の一部を被保険者に返金するか、追加サービスを提供することができる。疾病保険金庫間の競争を促す。

     民間疾病保険会社: 民間疾病保険会社は保健基金に含まれない。民間疾病保険会社は加入できる、加入したい人を加入させなければならない(締結強制)。また、法定疾病保険金庫に匹敵する基本タリフ(年齢制限なし)を被保険者に提供しなければならない。従来通り、月給が法定保険加入義務上限(3937,50ユーロ)を超える場合にのみ民間疾病保険会社に加入することができる。3年間の月給がこの上限を超えていた場合にのみ、法定疾病保険金庫から民間疾病保険会社に移転することができる。民間疾病保険会社から法定疾病保険金庫への移転はできない。

     疾病保険料率の引き上げ: 現在の保険料率は14,2%であるが、来年の疾病保険金庫の欠損約80億ユーロを埋め合わせるために、連邦政府は2007年1月1日に保険料率を平均で0,5ポイント引き上げて14,7%にする計画である。疾病保険制度の構造改革と医者/薬局/保険金庫/薬品会社の競争導入によるコスト削減(薬局の割引価格提供、病院への支出の削減など)も計画している。

     保険医の報酬は従来の点数制ではなく、固定した料金規定に基づいて支払われる。医者の報酬は従来通り、医師会が保険金庫と交渉して決める。保険金庫と医者の個別契約も可能とする。

     疾病保険金庫は薬局及び薬品会社と医薬品価格を交渉して決めることができる。これまでは固定価格が適用されていたが、将来は最高価格が適用され、特別価格(安売り)も可能になる。3者間の「割引交渉」により、年間最低5億ユーロの節約が見込まれている。3者間の「割引交渉」が行われない場合は、薬局は相応額の強制割引を保険金庫に提供しなければならない。

     原則的に保険サービスの削減はないが、整形美容手術後/ピアスの穴を開けた後/刺青の後の炎症に対する保険サービスは削除される。医療補助手段(車椅子、松葉づえなど)への支出は約10%削減される。交通費への補助も削減される。

 メルケル連邦首相はこの基本方針を「本当の打開策」と評価した。ポファラCDU幹事長は「負担できる妥協」で決着をつけることができたと語った。疾病保険制度の資金調達のために税金を引き上げるというSPDの要求に対して、CDU/CSUは確固として反対したという。また、SPDが主張していた市民保険が採用されなかったことを強調した。ゾェーダーCSU幹事長は、「妥協案は連立政権の行為能力の証拠だ」と評価した。しかし、CDU/CSU内では、保険料引き上げが経済回復に悪影響を与えることを懸念する声も聞かれる。

 ベックSPD党首は妥協に至ったことを歓迎した。ハイルSPD幹事長は、「来年、保険料率を引き上げなければならないのは残念だが、医薬品への新たな追加自己負担も保険サービスの削減もない」として、妥協案を弁護した。

 しかし、連立与党の妥協案に対する批判が各方面から殺到している。保健基金が官僚主義的モンスターになること、保健基金の破綻と保険料の急上昇などが懸念されている。SPD内では、「税金による資金調達を拡大しなければ、法定疾病保険金庫の財政問題を持続的に解決することはできない」として、CDU/CSUが税金による資金調達にブレーキをかけたことを批判する声が大きい。

 「財政主権」を失う法定疾病保険金庫も新しい保健基金モデルに反対しており、疾病保険制度の官僚主義化を警告している。連邦政府は、この基本方針を土台にして法案を作成する段階で、不明瞭な財源など多くの問題を具体的に解決していかなければならない。夏休み後論争が活発化することが予想される。

2006年7月11日)

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