オバサンの独り言

 

 ドイツの職業教育制度「デュアルシステム」とマイスター制度は技術大国ドイツを支える土台の一つである。日本でもこれを模範にした職業教育制度を提唱する人が多い。

ところが、近年、褒め称えられてきたデュアルシステムにおける様々な問題が表面化してきた。その背景には、若者の学力低下や移民の同化問題、不況、高い失業率などの諸事情がある。

 最近の調査結果では、ハウプトシューレ(5年生〜9年生の基幹学校)卒業生の52%、卒業資格のない中途退学者の84%がデュアルシステムから落ちこぼれているというショッキングな現状が明らかになった。以前は、上級の学校や大学に進学しない若者、特にハウプトシューレ卒業生は卒業後すぐに企業で2〜3年間職業訓練を受け、資格を取得して就職するのが極当たり前のコースだった。

 それが今は、職業訓練の職場が見つからない若者は国の特別支援プログラムに参加して、職業訓練をするに足る学力を習得しなければならない。学校で十分に勉強しなかった若者の補習を企業や国が引き受けて、職業訓練ができる水準にしなければならないというのである。企業は職業訓練どころか、まずは最低限のドイツ語と数学を習得させることから始めなければならないというから情けない限りである。企業が今の学校教育の質を批判するのは当然である。

 OECDのPISA調査ではドイツの生徒の学力低下が明らかになったが、その最も典型的な例がハウプトシューレの生徒の学力不足である。特にドイツ語力不足が著しい。外国人の子供だけでなく、ドイツ人の子供でもドイツ語力が低下しているという。

 そこで、ノルドライン・ヴェストファーレン州は今年から 歳児にドイツ語テストを義務付ける。ドイツ語に問題がある子供はドイツ語補習授業に参加しなければならない。親が無関心ならば、州が幼児教育を担うというわけである。

この政策を歓迎したい。小学校入学前に十分なドイツ語を習得していれば、どの子供も同じ出発点からスタートできる。これこそが平等なチャンスである。 落ちこぼれ防止に貢献するだろう。

 ドイツでは、社会の国際化に伴い、多文化政策が強調され、自国の文化や言語が軽視されてきた。「みんな平等、競争反対」のドイツ流「ゆとりの教育」 は学校教育の質を低下させた。ギムナジウム入学率や大学入学率を高めるためなら ば、質の低下には目を瞑るという政策が横行している。

 一般に、自国の文化の基盤である国語を軽んじる風潮があった。それが現在の若者の学力低下、 延いてはデュアルシステムの問題をもたらしているのである。

2007年2月14日)

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