オバサンの独り言

 

 フォン・デア・ライエン連邦家族相の保育サービス拡充政策には賛否両論があり、特にカトリック教会から批判の声が聞かれる。しかし、熱い議論の中、加速的に進展する少子化に対処する具体的な政策を迫られる連邦と州と市町村は3歳未満児の保育サービス(保育所と保育ママ)の拡充で合意した。

 現在の保育サービス供給率は旧西独が7,8%、旧東独が39%である。2013年までに少なくともEU水準の35%を達成するという目標は旧西独にとっては画期的な方向転換といえよう。

 旧西独では、「生後2、3年は一番大切な時期だから、母親が家で子育てすべきだ」という考え方が未だに根強い。「父親は会社に働きに行き、母親は家で子育てをする」という伝統的な役割分担が女性の職業上のキャリアを妨げ、同時に出生率低下をもたらした。旧西独の州首相たちが「仕事と子育ての両立」のために保育所の増設に同意したのは大きな進歩である。

 しかし、保育サービス供給率35%という目標を掲げたものの、その財源は未定である。本来、保育所の設置運営主体は市町村であるが、家族政策を国策とする連邦家族相は連邦の資金援助を約束した。少子化対策としての保育所増設なのだから、連邦が補助金を支給するのは当然であろう。

 ところが、ようやく保育所増設で合意したかと思ったら、今度は連邦補助金の配分で東西の州が争っている。「東にはすでに保育所が十分にあるのだから、連邦補助金は保育所が不足している西に多く配分すべきだ」と西 が主張する。すると、「西はこれまで保育所設置を怠ってきたのだから、自業自得だ。連邦補助金は平等に配分すべきだ」と東が主張する。

 東西の分け前争いは連帯補助金でも表面化してきた。東西ドイツが統一した1990年以降、西から東に投入された金額はなんと1兆5000億ユーロ(!)に上る。2019年まで、さらに1560億ユーロが西から東に流れる計画である。統一後17年間、東のインフラ は整備されてきたが、その一方で、西のインフラは老朽化し、貧困化する市町村が多くなった。

 そこで、「連帯補助金は西から東への一方通行ではなく、東西の区別なしに需要に応じて配分すべきだ」と西が主張する。「とんでもない、連帯補助金は東の「聖域」だ。1セントたりとも分ける用意はない」と東が反発する。

 旧東独はすっかり補助金生活に慣れてしまったようだ。裕福な兄からの仕送りで生活する弟が「少ない給料のために汗水垂らして働くよりも兄からの仕送りで楽に暮らした方がいい」と、自活を先に延ばしているようなものである。

 自分で苦労して稼いだお金であれば、できるだけ無駄なく有効に 大切に使おうと苦心するが、裕福な兄から送られてくるお金であれば、無駄遣いしても何とも思わない。どうせ無くなれば、兄が送ってくれるのだから。このメンタリティーが人間の自立心を蝕んでいく。これは開発途上国にも見られる現象だと思う。

 かつては裕福だった旧西独にもあちこちに綻びが出てきた。ブランデンブルク州のプラツェック州首相は、連帯協定見直し論議は「ドイツを再び分裂し、不和の種をまく」として、見直しに反対しているが、見直しをしなければ、旧西独の州の不満が募り、かえって不和が生じるのではないかと懸念される。

 旧東独は賃金においても社会保険給付においても常に東西の差別をなくすことを求めてきた。であれば、連邦補助金でも東西の差別のない、必要性に応じた配分が求められよう。それが効果的な投資につながるのである。

 裕福な兄のいない東欧諸国は旧ソ連から解放された後、厳しい自活の道を歩んできた。その成果が実り始めている。17年間、補助金生活にどっぷり漬かってきた旧東独が経済競争でこれらの東欧諸国に勝てるはずがない。連邦補助金配分の見直しは旧東独の自立へのチャンスと見るべきではないか。

2007年4月11日)

戻る