オバサンの独り言

 

 ドイツ経済は好調だという。失業者数の減少、租税収入の増大、企業収益・受注・投資の増加、経済成長予測の上方修正、金属産業の4,1%賃上げ妥結と、明るいニュースが多くなった。

 欧州連合の「安定協定」(単年度財政赤字が国内総生産比3%を超えてはならない)を守れず、制裁金を科されるかもしれないという状況にまで落ち込んでいたドイツが2011年には純信用調達なしの予算になる見通しだというのだから、景気回復の威力は大きい。

 しかし、この好景気を一般庶民はどれだけ実感しているのだろうか。政治家は持続的な経済成長を強調するが、国や企業だけでなく、庶民の財布の中にも変化が見られるのだろうか。

 財布の中身が少なくなるのを憂慮する人たちがいる。ドイツテレコムはサービス部門の従業員約5万人を新しいサービス会社に移して、労働時間を週34時間から38時間に延長し、賃金を9%削減すると発表した。その代わり2011年末まで解雇はない。長期的に職場を確保し、サービスを改善するために不可欠な措置だという。

 サービス産業労働組合は会社側の要求を受け入れられないとして、ストに入った。オーバーマン社長は労働組合との交渉が挫折すれば、サービス部門の売却も辞さないと威嚇している。

 12年前にドイツ電気通信市場が自由化され、ドイツテレコムが民営化された。しかし、独占国営企業の体質はいまだ健在のようで、融通の利かないサービスと高い料金ゆえに顧客が 減る一方だ。激しい価格競争の中でドイツテレコムは苦戦を余儀なくされている。

 ストの影響が心配されていたが、「テレコムのサービスはストになっても変わらない」と揶揄する声が聞かれる。確かに、ストがあろうがなかろうが、テレコムのコールセンターや顧客サービス窓口は電話しても待ち時間が長く、適切な回答をもらえないことが多い。

 競合会社よりも高い賃金、短い労働時間(週34時間!)ではドイツテレコムの競争力は低下する。競合会社の従業員もドイツに住んでいる市民である。よく批判の的になる低賃金国の労働者ではない。労働組合はこの 事実をどう見ているのだろうか。

 企業体質の改善を図らない限り、ドイツテレコムの将来は暗い。ドイツテレコムといえどもいつ買収の標的になるかわからない時代である。労使の長期的展望に立った英断が望まれる。

 企業買収や合併、売却、人員削減により経営陣の報酬が増えれば、その結果職場を失う多くの従業員がいることなど何とも思わない「トップマネージャー」が多い時代だからこそ、誠意のある経営者が求められている。痛みを分かち合う経営者と従業員の信頼関係がなければ、建設的な改革は できないのではないか。

 ドイツ経済が期待通りに発展すれば、いつかは一般庶民もその恩恵を受けられる だろう。ドイツテレコム従業員のように一時的に所得が削減されたとしても・・・。

2007年5月15日)

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