オバサンの独り言

 

 先週、ドイツ鉄道の労働組合が警告ストに入り、通勤客や旅行者に大きな影響が出た。週明けには経営者側と 2つの労組が20081月1日からの4,5%賃上げと2007年下半期の一時金600ユーロ支給で合意したが、ドイツ 運転士労働組合(GDL)は強硬な姿勢を変えず、無期限ストも辞さない構えである。

 約32000人の組合員( 運転士、車掌、食堂車従業員)を有するドイツ運転士労働組合は最高31%の賃上げと独自の労働協約を要求している。医師やパイロットの労組が産業別労組から分離して、独自の労働協約を締結しており、 運転士の労組もそれを目指している。

 現在、運転士の初任給は1970ユーロ(名目)で、勤続 4年後には給与体系の最高等級である2142ユーロ(名目)に達し、それ以上の昇給はない。「責任の重い職業に対する報酬としては、終身実質給与1500ユーロ(すべての手当てを含めると、既婚者の租税クラス 3 の実質賃金は平均で2100ユーロ)は少なすぎる」として、初任給2500ユーロ(名目)を要求する組合側の主張に賛同する人は多いだろう。

 時速300km前後で走るICE(ドイツの新幹線)の運転士も飛行機を操縦するパイロットも多くの人の命を預かる責任ある仕事に従事している。しかし、その所得格差はあまりにも大きい。今回の 運転士の「蜂起」が資格と所得の関係を見直すきっかけになればよいと思う。

 経済協力開発機構(OECD)によると、ドイツの賃金格差が広がっているという。コンサルティング会社の調査でも大手企業取締役の所得が一般従業員の所得よりもはるかに急テンポで上昇しているという結果が出ている。健全な均衡が崩れ始めているのではないか。

 事業再建に失敗しても、リストラし、売却すれば、株は上昇し、取締役の報酬も上昇する。経営失敗のおかげで多くの従業員が失業するというのに、辞任するトップマネージャーには莫大な退職金まで支払われる。辞任を歓迎して株が上昇すれば、オプションとして取得していた株で大儲けできるというオマケまでついている。これでは 所得格差が広がるばかりである。

 一方、不況時に大規模なリストラをして、貴重な専門者もどんどん切り捨ててきた経営者が、景気が回復すると、口を揃えて専門者不足を訴えている。まるで政治の落度でもあるかのように。将来を考えて人材を確保、養成することを怠ってきたのは経営者自身ではないか。もちろん、柔軟に対応できない、イデオロギーで硬直した労働組合にも責任はあるだろう。先見の明のない経営者の下で働く従業員は不運である。

 ドイツ鉄道は株式上場に備えてリストラを進め、生産性を高めた。昨年は過去最高の利益を計上した。連邦鉄道時代の古い給与体系を見直して、時代に応じた新しい給与体系を構築し、 運転士の士気を鼓舞する方が賃金コストを抑制するよりも有効な先行投資なのではないだろうか。優秀な人材の確保にもつながるだろう。今の給与体系を変えない限り、近い将来に 運転士不足になることが懸念される。

 株式上場による収入は取締役の昇給ではなく、現場(人材、サービス、インフラ)に有効に投資してもらいたいと、 ドイツ鉄道の顧客として切に願っている。

2007年7月9日)

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