オバサンの独り言

 

 2008年は米国だけでなく、ドイツも選挙の年である。1月27日はヘッセン州とニーダーザクセン州で、2月24日はハンブルク都市州で、9月28日はバイエルン州で州議会選挙が行われる。

 2009年には総選挙も控えているため、大連立政権の改革路線は足踏み状態どころか、後退し始めた。国政を担う連邦政府の閣僚までが自党の票集め発言に 終始し、連立を組んでいる相手の党を貶しあっている。

 ヘッセン州、ニーダーザクセン州、ハンブルク州では、与党のキリスト教民主同盟(CDU)と政権奪回を狙う社会民主党(SPD)が鍔迫り合いを演じている。法定最低賃金の導入を選挙戦テーマとする SPDの追い上げで政権維持が危ぶまれてきたヘッセン州のコッホ州首相は、年末から連続して発生した若い移民による暴力事件を取り上げ、少年犯罪のテーマで反撃に出た。

 マスコミは外国人問題を好む。世論にすぐ火がつくからだ。あっという間に選挙戦のテーマは最低賃金から若い移民の暴力犯罪に変わってしまった。「少年刑法をもっと厳しくすべきだ」、「刑務所よりも更生キャンプの方が効果的だ」、「少年刑法 の改正よりも現法の迅速な実施の方が先だ」と、活発な議論がなされている。

コッホ氏は1999年の州議会選挙で、当時の社会民主党/緑の党の連立政権が導入を図る外国人の二重国籍に対する反対署名運動を展開して政権を取った経歴がある。今回も形勢危うしと見たコッホ氏が若い移民の暴力事件に飛びついて、市民の不安を煽り、逆転を狙っていると批判する見方もある。

 発端となった暴力事件は年末にミュンヘンの地下鉄で起きた。禁煙の車内でトルコ人の若者(20歳)とギリシャ人の若者(17歳)がタバコを吸っていたので、76歳のドイツ人が注意すると、二人は「糞食らえドイツ人!」と罵倒し、顔につばを吐きかけた。それだけでは済まず、電車を降りた男性の後を追って、駅構内で殴ったり蹴ったりして重傷を負わせたのである。

犯人探しのために、駅構内の防犯カメラに映っていた現場のビデオが公共テレビやインターネットで放映された。画面に映る残虐な暴力行為を見た市民が憤りと不安を感じたのは言うまでもない。これはネオナチによる外国人襲撃ではなく、外国人によるドイツ人襲撃である。しかも、ごく普通の日常生活の中で起きた、誰にでも起こりうる事件である。

 その後も大都市で外国人の若者によるドイツ人への暴力事件が連続して発生した。車内で MP3 の音を小さくするように言ったドイツ人が殴られたり、乗客や運転手が何の理由もなく「糞食らえドイツ人!」と暴行された。これらの若者は移民の子供で、若くして長い犯罪歴のある再犯者である。

 SPD や緑の党は若い移民の暴力事件を選挙戦に利用しているとコッホ氏を批判しているが、長年の誤った寛容政策、多文化政策がもたらした深刻な移民問題に目を瞑ることこそ国民を欺く行為ではないだろうか。選挙の有無に関係なく、ドイツ社会は今こそ移民問題を直視しなければならない。誤った移民政策と外国人問題のタブー視がもたらした社会問題の重大性を黙認し続けることこそ無責任ではないか。

 青少年による犯罪では、移民の子供の割合が非常に高いことが指摘されている。特にトルコとアラブからのイスラム系移民が多いという。小さい時から父親の暴力を受け、男尊女卑の家庭で育ち、学校では落ちこぼれ、ドイツ社会の落伍者になった移民の若者に将来の展望はない。

 ナチスの暗い過去を背負うドイツ人が外国人問題で敏感に反応するのは理解できる。しかし、誤った寛容政策は移民の同化を妨げる。現政権下では、保育施設での早期教育、ドイツ語習得、全日制学校の導入などの積極的な同化政策がすでに始まっているが、その成果が現れるまでには時間がかかる。失政の修正は容易ではない。長期的なプロジェク トである。

 法治国家における責任と義務はドイツに住む者全員に要求される。ドイツ社会ではイスラム教のコーランではなく、ドイツの法規が規範である。これこそが移民政策の基盤であろう。寛容の問題ではない。

 トルコ人やイスラム教の団体は外国人差別を楯にとり、一方的な寛容を求めるが、自分達の子供の暴力犯罪の原因がどこにあるのかをまずは自問すべきではないのか。ドイツ社会に同化して、真面目に生活している多くの移民にとっても大迷惑である。

 Die Zeit 紙のドイツ人ジャーナリストはオンライン上のビデオニュースで、「偏狭固陋な小市民的なドイツ人」、「知ったかぶりをする年金生活者」が「外国人の若者を挑発しているのだ」と語り、「ドイツ社会の問題は外国人の犯罪にあるのではなく、ドイツ人の非寛容性にある」と総括していた。

 禁煙の車内でタバコを吸わないようにと勇気を持って注意したがために、残酷な暴行を受けた76歳のドイツ人が移民の若者からは「糞食らえドイツ人!」と罵倒され、ドイツ人ジャーナリストからは「知ったかぶりをする偏狭固陋な 年金生活者」と非難されるドイツ社会は 68年世代の移民政策の失敗を具現している。

 この年金生活者は二重の被害者である。加害者と被害者を取り違えてはならない。

2008年1月18日)

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