オバサンの独り言
ショルツ連邦労働・社会相が発表した貧富報告書草案はドイツの貧富格差が広がっていることを明示している。誰もが感じている憂鬱な現実だ。
ドイツ市民の13%は貧困の危機にあり、さらなる13%は社会給付を受けてようやく貧困の危機を免れているのだという。特に長期失業者(貧困危機率43%)と一人親の家庭(48%)の状況が厳しい。子供の貧困危機率は12%で、社会給付がなければ33%以上になるというから事態は深刻だ。
現在、ドイツでは、実質収入が月額781ユーロ以下(国民全体の年収の中央値の60%以下)の独身者、月額1640ユーロ以下の4人家族(子供2人)が「貧しい(貧困の危機にある)」とみなされる。
それに対して、実質収入が月額3418ユーロ以上の独身者、月額7178ユーロ以上の4人家族は「金持ち」(中央値の200%以上)に属する。
高所得者層の収入は大幅に増加し、低所得者層の収入は減少した。中間層の収入は停滞している。金持ち層の中でも「すごくお金持ち」と「少しお金持ち」の格差が広がっているようだ。
ドイツ企業の役員の2006/2007年度報酬は平均で17,5%上昇した。トップマネージャーのボーナス上昇率は20%以上で、企業利益が減少していてもちゃんとボーナスが増えているというから驚くばかりである。
お金持ちがますます裕福になる社会構造は次の統計からも明らかだ。資産階級(収入が平均所得の150%以上)の割合は1986年の17%、1996年の18%から2006年は21%に上昇した。それに対して、中産階級(平均所得の70〜150%)の割合は63%、61%、54%と大きく低下した。無産階級(平均所得の70%以下)の割合は21%、21%から25%に上昇している。貧富の差は2001年まで大きな変化がなかったが、それ以降広がってきたという。
社会民主党は金持ち層の税負担増と最低賃金の導入を求めているが、それに反対するキリスト教民主・社会同盟は低所得者層と中間層に対する税法上の負担軽減を検討している。
しかし、再分配が最善策でないことは過去の経験が示している。社会給付依存者を増やすのではなく、自立と教育の支援を最優先すべきだろう。子供の貧困問題を解決しなければ、ドイツの未来は暗い。
ところで、財政立て直しを理由に減税に消極的な連邦政府は連邦議会議員手当の引き上げには積極的なようである。昨年末に9,4%引き上げを決定したばかりなのに、今度は公務員の賃上げも議員手当に適用するのだという。
今年1月1日に330ユーロ増えて月額7339ユーロになったばかりの手当は2009年1月1日にさらに329ユーロ引き上げられる。これはすでに法律で規定されている。
それに公務員賃上げ分も加えて、2009年はさらに287ユーロ(3,1%増)、2010年は213ユーロ(2,8%増)引き上げて月額8159ユーロにすることで与党は合意していた。賃上げ率はなんと16,4%! 連邦議員はそれに加えて一括費用として月額3720ユーロ(免税)も支給される。年金保険料も払わない。
トップマネージャーの高額報酬を厳しく批判してきた議員さんたちもさすがに気まずくなったのか、与党は急遽、公務員賃上げ分の引き上げ時期を遅らせることにした。来年の総選挙を控え、落選しては元も子もないということか。自分の報酬を自分で決める現行制度と議員手当体系の見直しが先決だろう。我が身を省みない高額報酬批判は説得力がない。
連邦労働・社会省の調査結果によると、大半の人が「豊かさ」として「健康」を挙げている。そのほかに重要なことは「平等な教育」、「良い人間関係」だという。
「豊かさ」はお金だけでは測れない。やはり健康第一である。しかし、貧困が心身の健康も損なうことを忘れてはならない。
(2008年5月20日)
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