オバサンの独り言

 

   連邦内閣が決定した年金引き上げは年金生活者にとって久しぶりのうれしいニュースである。深刻な経済危機の最中の2,41%(旧西独)/3,38%(旧東独)という引き上げ幅は多くの年金受給者も予想していなかったのではないだろうか。

   2004年から3年間据え置き、その後も0,54%増、1,10%増と、物価上昇や社会保険料負担増などを考慮すると、年金生活者は実質所得減を余儀なくされてきた。今年は実質増になる見通しである。

   平均的所得で45年間働いた人の標準年金(月額)は28,80ユーロ増えて1224ユーロになるという。月額28,80ユーロの増加がメディアが書き立てるほどの「大幅引き上げ」なのかどうかは疑問であるが・・・。

   時を同じくして、ドイツポストが前社長のツムヴィンケル氏に年金2000万ユーロを全額支払ったことが明らかになった。脱税で執行猶予判決を受け、辞職に追い込まれたこの人は賞与もちゃっかり貰い、豪勢な年金を持ってイタリアに所有するお城に隠居したとか。

   標準年金とツムヴィンケル氏の年金のあまりにも大きな差に思わずため息が出る。「契約に基づく全く正規の権利の行使だ」というのが彼の見解である。

   その通り。大企業ではこんな報酬・年金制度が公然と横行しているのだ。国が資本参加している旧国営企業も然り。金融危機を機に注目されたにすぎない。「恥知らず」と悪者扱いされているツムヴィンケル氏は運が悪かったというわけだ。

   巨額の公的資金を受けて経営再建を図る企業が幹部社員に高額のボーナスを支給している現状に憤慨した政府が「企業に任せていたのではいつまでたっても埒が明かない」と業を煮やし、ようやく役員報酬制度を見直す法改正に踏み切った。

   当然の措置だろう。なぜ納税者がモラルも節度もない幹部社員の私腹を肥やす手助けをしなければならないのか。

   連邦労働省の委託でドイツの大企業30社を対象に行った調査結果では、役員が業績以上の報酬を受けていることが明らかになった。大企業の役員の報酬額は企業利益率もしくは株式パフォーマンスと全く関係ないらしい。昇給は能率基準で決まるのではなく、むしろ取締役会や監査役会、企業の規模に依存しているという。

   ドイツ銀行の取締役の報酬は1970年代は平均的従業員の約30倍だったが、1997年は50倍、1998年は80倍、1999年は200倍、2000年は約300倍に一気に上昇した。他の大企業も同じような展開だった。米国も同様で、1992年は社長の報酬が普通の従業員の82倍だったが、2003年は400倍に膨れ上がっている。

   調査を行った専門家は、「役員報酬は需要と供給の結果だ」という主張も正しくないという結論に至っている。むしろ、他企業の報酬と比較して決定しているようだ。従って、役員報酬の透明化はかえって報酬の上昇をもたらすと指摘している。

   一方、取締役会に女性が少ない理由として、女性には適切な人脈と同性の優れた指導者(メンター)が欠けていることを挙げている。また、女性は依然として家事と育児を自分の役割だと感じていることも理由の一つだという。

   妥協のない短期的利益追求(短期的株価上昇)とそのための容赦のない合理化、人員削減で自らの富を増やした旧GE社長はシェアホルダー・バリュー原則の徹底した提唱者、実践者であったが、今頃になってシェアホルダー・バリュー哲学は「世界で最も馬鹿げた思いつきだ」と語ったという。短期的利益ではなく、長期的な企業価値を目指さなければならないと助言しているというから呆れてしまう。

   「世界で最も馬鹿げた思いつき」に便乗して大儲けをしたマネージャーたちはほくそ笑んでいることだろう。彼らが退散した後に残された、競争力を失った赤字企業の後始末を納税者がしているのが今日の金融危機なのである。

2009年3月19日)

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