オバサンの独り言
ビアガーデンの季節がやってきた。雲一つない真っ青な空の下、新緑のビアガーデンで飲むビールは実に美味い。長かった冬からの解放感が人々を太陽と新緑の戸外へ駆り立てるのだろう。ビアガーデンはまさに「解放感ピュア」なのである。 しかし、「ビールは美味しい」とばかり言ってはいられない。若者の飲酒が大きな社会問題になっているからだ。 ある専門家が新聞のインタビューで、泥酔する若者の急増を憂慮していた。最近、意識不明になるまで酒をがぶ飲みする“Komasaufen”が若者の間で広まっており、すでに死者も出ている。飲酒を始める年齢が低下し、飲酒行動も変わってきているようだ。 ビールではなく、ウォッカやテキーラのような強い蒸留酒を速いテンポで一気飲み。公共の遊び場や自宅の地下室(娯楽用の部屋)で飲み競争。最初に意識を失って倒れた人、吐いた人の勝ち。その様子をYouTubeに掲載。14歳で最初の完全酩酊を経験。アルコール中毒で病院に運ばれる若者の平均年齢は15歳、半分は女の子・・・。 ミュンヘンでは、一日当たり二人の若者が泥酔状態(意識不明もしくは負傷)で病院に運ばれてくる。血液中のアルコールは平均で2,0パーミル。2008年の最高値は3,2パーミルだったという。 青少年保護法第9条は、飲食店、販売店、その他の公共の場で火酒、火酒を含む飲料ないし食品を未成年者(18歳未満)に売ったり、与えたり、飲ませることを禁じている。また、その他のアルコール飲料を16歳未満の子供に売ったり、与えたり、飲ませることも禁じている(但し、親権者が同伴する場合には適用されない)。 しかし、この第9条を厳守している飲食店、販売店は少ないのが現状だ。周りの大人も青少年の飲酒に寛大だ。飲酒を助長する傾向さえ見られる。自分の子供がどんな友達と、どこでどのくらい飲酒しているかを知らない親が多い。 専門家は、14、15歳の子供を放任するのは早すぎると警告している。親と子の関係を友達関係と思い違いする親が多いらしい。早い時期(8〜12歳)に親の権威を子供に示すよう助言している。親のしつけの失敗の尻拭いを学校に押し付けられても教師もお手上げ状態のようだ。 私が米国、カリフォルニア州で見た限りでは、アルコール飲料を購入、注文する若者の年齢コントロールが徹底していた。飲食店でもバーでもスーパーでも若者は必ず、身分証明書の提示を要求される。社会的常識になっているのだ。その徹底ぶりには感心した。 ドイツにも青少年保護法第9条という立派な法律があるのに、なぜ守れないのだろうか。 「ビールの文化」があるからではないか。ビールは水のようなもの、栄養価の高い食物・・・などといわれてきた。断食中の僧侶が栄養価の高いビールだけを許される伝統がある。そもそもビールは修道院で醸造されていた。以前は社員食堂でビールを飲めたし、工場で作業員が水の代わりにビールを飲みながら作業していた(特に南ドイツ)。ドイツ人は飲酒に寛容だ。 しかし、今の若者の飲酒行動は伝統の「ビール文化」の域を逸する異常現象だ。専門家が指摘するように、泥酔は脳障害をもたらすとともに、様々な事故(強姦を含む)も引き起こす。一生を台無しにしてしまうかも知れないのだから、「若気の至り」では済まない。喫煙のリスクだけでなく、飲酒のリスクについても未成年者だけでなく、成人にも啓蒙する必要がある。 どんなに禁止してもどうぜ隠れて飲むのだから年齢コントロールは意味がないという意見が根強いが、公共の場での販売、飲酒を徹底的に禁止すれば、隠れて飲むのも難しくなる。米国のように徹底したコントロールを実行してからその効果のほどを評価すべきだろう。 ドイツには無数の法律があるが、その厳守のためにコントロールしようとすると、すぐに反発される。だが、青少年の飲酒問題では彼らの自己責任に任せることはできない。一貫したコントロールが不可欠である。 ところで、飲食店は2002年から、最も安いアルコール飲料(通常、ビール)よりも安いソフトドリンクを少なくとも1種類、メニューに入れることを義務付けられていることをご存じだろうか。一番安いからビールを飲む若者が多いからだ。 今年のオクトーバーフェスト(ミュンヘンのビール祭り)では、ビールよりも安いソフトドリンクを2、3種類販売するという。今年の価格は1リットルジョッキーのビールが8,10〜8,60ユーロ(平均で前年比3,8%高)、1リットルジョッキーのミネラルウォーターが平均で6,63ユーロ(前年より 6セント高)、シュペーツィ(レモネードとコカコーラの混合飲料)が平均で7,76ユーロ(26セント高)だそうだ。
来年はオクトーバーフェスト200年祭。伝統の「ビール文化」を継承するためにも飲酒のリスクを心得ておかなければならない。 (2009年5月26日)
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