オバサンの独り言
メディアによると、学位コンサルティング会社から賄賂をもらって不適切な受験者に博士号を与えたとして、検察庁は約100人の大学教授(大半は客員教授と私講師)を賄賂罪の容疑で捜査しているという。 博士号の代金は4000〜20000ユーロ。専門分野は医学、法学、経営学、工学、文学、社会学、教育学など様々で、お金で博士号を買う顧客の多くは企業のマネージャーや弁護士、公務員、裁判官、医者、建築技師など、すでに職業についている人達である。全国で約12の大学が関与しているらしい。 今回の贈収賄事件の発端になった会社の社長とハノーバー大学法学部教授はすでに刑務所に入っている。 ドイツでは、毎年約24000人に博士号が授与されている。30年前はその半分だった。これは、大卒者全体に占める博士の割合が増加したからではなく、大卒者が増えたからだという。 大卒者に占める博士の割合はほとんど変わっていない。法学部では10分の 1、人文科学では 6分の 1、工学部では 5分の 1、自然科学全体では約 2分の 1、医学部では 3分の 2から 4分の 3。 博士号を取りやすい学部と取りにくい学部があり、博士号の価値にも差があるようだ。例えば、医学部では学生の大半が博士号を取得しており、取得は難しくないといわれる。 学位コンサルティング会社は、不十分な成績ゆえに指導教授を見つけることのできない人に指導教授を仲介したり、博士論文のゴースト・ライターや仕上がった博士論文まで斡旋するのだそうだ。 ドイツの大学は依然としてほとんどが公立であり、「神聖なる学問・研究の場」という伝統が少なからず守られていると思っていただけに、博士号をお金で売買するビジネスが横行しているという報道に驚いている。 なぜ、博士の称号が欲しいのか。その理由は虚栄心、早い昇進、高い給与(大卒の同僚よりも平均で年間約13000ユーロ多い)・・・。 しかし、不正な博士号取得は今に始まったことではない。大手企業のマネージャーが部下に博士論文を書かせ、博士号を取得するというようなことはごく普通に行われていたと聞く。博士号授与後、指導教授の研究室や大学にはその企業から立派なコンピューターやハイテク設備が寄付されたり、共同研究への資金提供があったり・・・。 特に論文博士の場合、お金を払って書いてもらった博士論文で博士号を取得した人が結構いるらしい。 通常、博士論文の審査及び試験には指導教授だけでなく、他の教授も参加する。指導教授一人だけで博士号を授与することはできない。従って、大学や同僚が不正に気付かないはずがない。大学が黙認してきたとすれば、学位審査の見直しが不可欠だろう。 国のエリート大学促進政策に問題を指摘する専門家もいる。エリート大学コンテスト以来、科学技術人材の育成強化が高く評価されるようになり、できるだけ多くの大学院生を受け入れて、補助金をもらおうと試みる大学が多くなった。質より量が重視されるようになったのである。 本来ならば不十分な成績ゆえに博士課程に進めない学生でも受け入れる傾向がみられるという。ドイツが誇る博士号の水準の低下が懸念される。 また、教授の追加手当が指導した博士の数、発表した論文の数で査定されるようになると、ポケットマネーを稼ぐために質より量をとる教授が出てくるのも不思議ではない。一度モラルの境目を越えてしまうと、善悪の判断力が鈍くなり、あとはエスカレートするばかりである。 長年にわたって不正博士号の授与を批判し続けてきたミュンヘンのある大学教授は、毎年授与されている博士号のうち約 3%は不正な手段で手に入れたものだと推測する。毎年約700人の不正博士が誕生していることになる。今回の捜査では正教授が少ないが、実際には大多数が正教授だという。 同教授は、今回の事件は氷山の一角にすぎないと断言する。今後、醜い現実が暴露されることだろう。 博士号の安売り、質より量では世界に誇れるエリートは養成できない。名誉回復のためにも厳格かつ公正な学位審査を願いたい。それが正当な手段で博士号を取得している勤勉な人達に対する大学の責務でもある。
ドイツは大学の大衆化で失われてきた「大学の品格」を取り戻さなければならない。 (2009年8月28日)
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