オバサンの独り言

 

   疾病保険金庫の調査結果によると、ドイツでは女性の二人に一人、男性の三人に一人が認知症になるという。何ともショッキングな現実である。

   人口に占める認知症患者の割合は2009年の1,5%から2030年は2,3%に、2060年は3,8%に上昇すると予想される。認知症患者の在宅介護は難しく、介護施設に入所する人が急増するという。

   高齢化が進展すれば、要介護者が増加する。少子・高齢化社会では確実に老老介護が増える。家族による在宅介護は国にとって最も安上がりな介護モデルであるが、介護する家族も高齢化し、負担が大きいために、今後は施設介護の需要が一層増えるものと考えられる。

   医療費・介護費の増加、介護専門職員不足、介護サービスの質の低下、介護施設不足、高い入居費、長い待機時間など、医療・介護保険制度が抱える課題は多い。状況は深刻化するばかりだ。

   レスラー連邦保健大臣は2011年に介護保険制度の見直しを計画しているが、財源が限られているだけに、彼が提唱する賦課方式から積み立て方式への移行も容易ではないだろう。問題の核心にどこまで切り込めるか、注目されるところである。

   一方、州レベルで介護施設の個室化が進んでいる。バーデン・ヴュルテンベルク州は同州介護施設法で2019年からの介護施設完全個室化(現在54%)を定めている。ノルドライン・ヴェストファーレン州は個室化80%、バイエルン州は85%を目指している。

   既存施設は二人部屋を個室に改造しなければならないため、収容人数が減少し、入居費が高くなる。高い個室は空いたままで、安い二人部屋の待機時間が長くなる。高額な投資を余儀なくされながら収入が減少するために、閉鎖する施設も出てきた。

   高い入居費を負担できないために、あるいは待機時間が長いために在宅介護になったケースでは、高齢化する家族の介護負担が原因で様々な問題が生じている。多くの要介護者は東欧諸国からの移入者の低賃金かつ無許可の介護サービスに頼らざるを得ない。今後、二人部屋の需要が増えれば、個室化政策の見直しも有り得ると専門家は指摘する。

   日本でも介護施設の個室化が進んでおり、四人部屋が少なくなっている。高い個室は空いているのに、安い四人部屋は入居希望者が多く、待機時間が長くなるばかり。自宅から遠い施設にしか部屋が見つからないため、家族も頻繁に訪問できないというのが現状だ。これが本当に人間の尊厳に則った理想の介護政策なのだろうか。

   理想を掲げて個室化を進めるのであれば、まずは高齢者が自分の年金で負担できる入居料を保証すべきだろう。財源のないまま理想だけが先走りするのではなく、その時々の実現可能な範囲の中で最善の道を模索していくことが政治の任務ではないだろうか。

   認知症になる確率の高さに不安を感じていたところ、ミュンヘン大学の人間科学センター長であるペッペル教授のインタビュー記事を読む機会があった。彼は認知神経科学研究の世界的権威で、脳研究者である。しかも世代研究プログラムの創設者で、高齢者研究にも詳しい。

   彼の見解によると、記憶力は高齢になるまで訓練することができるという。脳を使わないから記憶力が低下するのだそうだ。

   そこで、彼は「集中力のトレーニング」を勧めている。その効果的な練習が暗記だ。例えば、詩の暗記や外国語習得の際の記憶力は原則的に高齢になるまで訓練することができるらしい。ドイツ語の勉強が認知症予防になるのであれば、一石二鳥ではないか。

   また、「高い知的能力を維持するためには、読書、十分なスポーツ、十分な水分の摂取、バランスのとれた食生活が不可欠だ」という。「言うは易く行うは難し」ではあるが、常々心掛けていれば実践不可能ではない。

   高齢者の多くがテレビ漬けで、思考が完全に受身になっている。脳は能動的に使わなければ退化し、認知症を引き起こす。一日中テレビを見て過ごす人は自ら認知症を招いているようなものだ。

   国民が負担できる介護保険制度を目指すのであれば、国民一人一人が要介護にならないように予防することが一番手っ取り早くて安上がりだ。予防こそが最も割安かつ健全な介護政策である。認知症予防の啓蒙と普及は長期的に見れば最も効果的な政策なのではないだろうか。

   2011年は脳トレーニングに励みましょう。果たして成果や如何・・・。

   では、皆様、楽しいクリスマスと良いお年をお迎えください。

2010年12月22日)

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