オバサンの独り言

 

  キリスト教では、灰の水曜日(今年は 2月17日)から復活祭( 4月 4日)の前日までの日曜日を除く40日間は断食 (Fasten) をする四旬節である。ドイツ語では “Fastenzeit“ (断食期間)という。今がちょうどその時期にあたる。

   しかし、今では信心深いカトリック教徒においても断食は「精神的な精進」の意味に解されており、宗教的な断食は行われていないようだ。

   ところが、疾病保険金庫DAKの世論調査では意外な結果が明らかになった。バイエルン州の回答者の54%が「数週間、一定の嗜好品を断つのは有意義だ」と考えているというのだ。

   州別でみると、嗜好品を断つことを有意義と考える人はカトリック教徒の多いバイエルン州に特に多く、旧東独とノルドライン・ヴェストファーレン州では少なかった。ドイツ全体では、女性、比較的若い人、教育水準の高い人が断食を有意義と考える傾向にあるらしい。

   バイエルン州では、断つ対象が甘い物(64%)、酒(60%)、肉(47%)、タバコ(35%)で、甘い物では全国平均(59%)を超えているが、酒では全国平均(64%)を下回った。

   酒を断ち難いのは、“Fastenzeit“ “Fastenbier“ (断食ビール)という強いビール(Starkbier)を飲む習慣があることも影響しているのだろう(2008年 2月11日のオバサンの独り言を参照)。

   バイエルン州の回答者の53%は過去に最低一回は断食をしたことがあるという(旧東独では45%)。まだ一度も断食していない人は33%で、将来も断食を考えていない(旧東独は38%)。

   一方、「数週間テレビを断つことができると思う」と回答した人は30%、「コンピューターとインターネットを断つことができると思う」と回答した人は20%に過ぎなかった。

   現代人にはコンピューターや携帯電話、自動車を断つことのほうが飲食物を断つことよりもずっと難しいのかもしれない。

   宗教的な理由、健康上の理由、美容上の理由など断食の動機は様々であろうが、約半分の人が何らかの断食をしたことがあるという統計は興味深い。

   現代社会は技術進歩と経済発展のお陰で豊かになり、私たちは物で溢れる消費社会の中で生活している。「もっと、もっと」の欲望は満たされることがない。生活習慣病は豊かな消費社会の弊害の一つである。人間の際限のない欲望は戦後最大の金融危機をもたらした。

   どの宗教にも断食節があり、程度の差こそあれ、「一定の期間行いを慎み、心身を清める精進」は共通している。 

   満足を知らない消費社会に生きる現代人が宗教の如何にかかわらず、精神的な自己規律を回復するために一定期間の精進を試みることは有意義だと思う。

   自分なりの “Fastenzeit“ の中で、見失いがちな原点に帰り、心身の健康を取り戻したいものである。

2010年3月1日)

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