オバサンの独り言
このところメディアが連日報道しているニュースといえば、ドイツは「ギリシャ財政危機」、日本は「米軍普天間飛行場移設問題」だろう。 日本では、朝昼晩コロコロ変わる首相の発言ばかり。能面のような真面目な顔をして、よくも平然と一貫性のない発言を続けられるものだ。この人が日本の首相なのかと思うと、実に情けない。 颯爽と政権の座に着いた民主党は旧政治のしがらみのない新鮮なアイディアを駆使して、行政刷新、新しい政治を推し進めるのかと期待していたが、見事に裏切られたようだ。 政治とカネの問題でも国民に見限られた自民党と全く変わらない。野党時代に与党に求めたモラルはどこへ行ってしまったのか。 事業仕分けの様子を見ても傲慢な官僚が傲慢な政治家に代わっただけ。無駄の削除は大いに評価できるが、ただ切り捨てればいいというものでもあるまい。メディアを意識したパフォーマンスは見苦しい。 緻密に練り上げることなく強行実施する政策はマニフェストを口実にした、選挙のためのバラマキではないか。思わぬ抜け穴がボロボロ出てくることだろう。 あまりにもナイーブな外交政策は目も当てられない。米軍普天間飛行場移設問題は鳩山政権の無能力を暴露した。経験も指導力もない政治家の「政治主導」の悲劇である。 だが、犠牲を強いられてきた沖縄の問題がクローズアップされ、国民全体の問題として議論されるようになったことは唯一の収穫だったといえよう。 政治の迷走は日本ばかりではない。ギリシャ財政危機でEUは大荒れである。金融危機からようやく脱し、上向きかけてきた経済が再び大きな打撃を受けている。 ユーロ圏はギリシャだけでなく、ポルトガル、スペイン、イタリアといった次の財政破綻候補を控えている。ユーロ圏諸国はとりあえず応急処置で合意したが、悪性腫瘍が取り除かれたわけではない。大手術はこれからだ。集中治療室に横たわる危篤患者にかかる医療費が膨大に膨れ上がることは必至で、しかも治癒の保証はない。 パニックに陥った首脳たちが犯した最大の過ちは通貨統合の主要原則を破ってしまったことではないだろうか。 EU条約は加盟国への金融支援を原則として禁止しており、各国は財政問題で自己責任を負わなければならない。ギリシャへの金融支援により、この原則が破られた。 また、欧州中央銀行は金融政策に利用されてはならないとする政治からの独立の原則も国債買い入れの実施により破られた。最後まで欧州中央銀行の独立性を貫こうとしたドイツは政治的介入を望むフランスに押し切られてしまったのだ。 サルコジ仏大統領の行動にはギリシャやスペインの国債を大量に抱える自国銀行を守るためのエゴが透けて見えた。これが欧州連合の政治・経済・通貨統合の難しさである。 その結果、ドイツマルクに相当する「強いユーロ」が「弱いユーロ」になることが懸念されている。政治家は今回の応急処置の代償の大きさを肝に銘じるべきだ。 通貨統合のために様々な厳しい規定が定められていたが、いざとなるとすべて無視。最後は助けてもらえることが分かり、放漫財政国や破綻国債を抱える銀行は喜んでいることだろう。 長年にわたって放漫財政を続けてきただけでなく、それを隠蔽してウソの情報をEU加盟国に提示してきたギリシャの罪は重い。ユーロ安定のための通貨統合の原則を犠牲にして、放漫財政国の尻拭いをしなければならないのだから、最大支援国であるドイツが厳しい条件なしに金融支援策に同意することを躊躇したのは当然であろう。 しかし、その反面、EUなしにドイツの発展がないのも事実だ。ドイツの最大の輸出先はEU加盟国であり、その割合は輸出全体の62,9%に及ぶ。ギブ・アンド・テイクなのだ。 「ハインリッヒの法則」によると、「1件の重大事故・災害の裏には29件の軽微な事故・災害があり、その背景には300件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)が存在する」という。「重大災害の防止には、事故や災害の発生が予測された「ヒヤリ・ハット」の段階で対処していくことが必要だ」というのだ。危険の予知と予防が大切だということだ。 臭い物には蓋をし、見たくないものには目をつぶる。そうして放置された小さな過ちがどんどん膨れ上がって、最後は重大災害になる。まさにEUの首脳たちが犯してきたミスマネジメントだろう。ギリシャの放漫財政は今に始まったことではなく、長年の周知の事実だったのだから。 政治家には自己欺瞞を猛省してもらいたい。今回の失敗から学び、致命的になる前に災害を未然に防止するメカニズムを構築し、厳守してほしいと願う。 日本国債は大半が国内で購入されており、事情が違うとはいえ、日本の政府債務残高は断トツだ。日本の政治家も国民もEUの失敗を教訓にしなければならない。他人事ではないのだ。 素晴らしいマニフェストや厳しい規則を作っても守れなければ意味がない。
今、政治不信は頂点に達している。政治家は市民の失望と怒りを軽視してはならない。 (2010年5月16日)
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