オバサンの独り言
戦後最大の歳出削減計画の一環として、シュレーダー連邦家庭大臣は両親手当の一部削減を決定した。失業手当 II 受給者の両親手当(300ユーロ)が廃止され、実質所得が月額1240ユーロ以上の人の両親手当が現行の(実質所得の)67%から 65%に引き下げられる。 しかし、「月額最大1800ユーロ」は譲らなかった。すでに「父親の月」の2ヶ月延長と「短時間勤務両親手当」導入の棚上げが決まっており、これ以上の妥協は両親手当の根本原則を揺るがすことになるからである。3歳未満児保育施設整備計画も削減しないという。同大臣の決定を評価したい。 元々、両親手当の生みの親であるフォン・デア・ライエン前家庭大臣は、大卒女性の出生率低下に対応する政策として両親手当を導入したのである。 最近発表された調査結果を見ると、少しずつ効果が出始めていることが分かる。高学歴・高所得の女性の出生数が増加しており、父親の育児休業取得率は導入前の3,5%から2009年第3四半期の20,7%にまで上昇している。 社会の意識の変化がゆっくりと、しかし確実に進行していることが明らかである。 連邦政府の2010年度家庭レポートによると、女性の67%、男性の58%が「パートナー両方が働くべきだ」と回答している。女性の42%は「母親と父親が短時間勤務をして、平等に育児をするのが最も良い」と考えている(男性では3人に1人)。男性の60%は「子供が産まれれば育児休業したい」という。 2009年度連邦両親手当及び育児休業法評価報告書でも、母親と父親が育児を分担する傾向、父親が積極的に育児に参加する傾向が指摘されている。「父親の月」の2ヶ月間だけ育児休業する父親が大部分だが、積極的に育児をしているようだ。 ドイツでは、「父親は外で働き、母親は家で家事と育児」の家庭から「共働き家庭」に移行しつつある。その背景には、女性の社会進出だけでなく、「働き手が一人だけでは家計が苦しい」という経済的事情がある。 自分の親たちが享受してきた生活水準を維持するためには、若い世代は共働きしなければならない。失業、離婚、一人親が増える社会では尚更のことである。両親手当は父親の育児参加を促し、母親の早期職場復帰を実現して、家計の安定化に貢献する。 「二人で働いて家計も育児も勤務時間も分担しよう」という若い世代の意識の変化を大いに歓迎したい。 しかし、若い世代が望んでいる「仕事と育児の両立」を実現するためには企業の意識改革が不可欠である。 少子化社会では人材不足が深刻化してくる。女性の能力、労働力を無視する企業は国際競争で勝ち抜くことはできないだろう。有能な人材を確保するためにはフレキシブルな勤務時間制度が避けて通れない課題だ。 保育施設の整備も重要である。育児休業後の育児支援を拡充しない限り、母親は職場復帰できない。 これからの家族政策では共働き家庭の支援がキーポイントになる。両親手当/保育施設インフラの拡充/フレキシブルな勤務時間制度の三拍子が揃って初めて、有効な支援になるのだ。両親手当はこの新しい家族政策への突破口になった。
家族政策には大きな財源が必要だが、成果はすぐには出てこない。選挙目当ての近視眼的政策ではなく、社会の変化を見据えた長期的かつ持続的、柔軟な家族政策が求められている。 (2010年6月21日)
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