オバサンの独り言
好況が続くドイツでは、専門職者不足が深刻な問題になっている。少子・高齢化社会への対応の遅れが表面化してきた。 専門職者不足を訴える企業側の悲痛な声もあれば、高度な専門知識と技能を有する50代の専門職者が意に反して早期退職させられ、新しい職を探しても見つからないという諦めの声も聞く。 連邦政府は経済界の訴えに応えるべく、機械工学と電気工学のエンジニアと医者の職業におけるEU以外の外国人の移入を緩和する「専門職者確保コンセプト」を閣議決定した。需要に応じて緩和適用範囲を他の職種にも拡大していく意向である。 このままでは2025年までに650万人の潜在的労働力が減少すると予測されている。政府は国内の潜在的労働力、特に女性と中高年者の就業促進と若者の職業教育の改善を最優先することを強調しているが、本腰を入れた取り組みはまだ見られない。 法定年金支給開始年齢が67歳に引き上げられても67歳までの継続雇用は保証されていない。専門職者不足を訴える企業が専門職者を早期退職させているのが現実で、中高年者の再就職は極めて厳しい。貴重な人的資源の活用からは程遠い。 統計によると、25歳〜59歳の女性のうち560万人が就業していないという。その内の180万人は仕事を探しているが、380万人は非就業者で、その内の約100万人は職業に就いたことが一度もない。就業している女性のうちフルタイム勤務は約半分にすぎず、女性パートタイム勤務者は平均で週18,1時間しか働いていない。 男女の賃金格差は依然として大きく、女性の昇進のチャンスも改善されていない。最大手上場企業30社では女性取締役が 6人、女性監査役が27人、連邦省の事務次官24人のうち女性は 3人・・・。企業や政治家が提唱する「女性の活用」とその現実のあまりにも大きな隔たりに唖然とするばかりだ。 大卒者の半分を占める女性の能力を無視し続けていいのだろうか。大学教育に投入される税金の無駄遣いをこのまま容認し続けていいのだろうか。 これまで経済界は自発的に女性役員を増やすと主張してきたが、ほとんど成果は見られない。ある研究所の調査結果によると、主要上場企業330社の取締役会では、女性の比率が過去 8年間で2,3%から2,7%にしか上昇していないという。 業を煮やしたフォン・デア・ライエン連邦労働相はこの立法期間中に取締役会と監査役会に占める女性の比率を割り当てる「クオータ制」を法制化したい考えである。 「クオータ制」を2003年に導入したノルウェーでは、すべての上場企業が理事会(Verwaltungsrat。ドイツの監査役会に相当するが、はるかに大きな権限を有する)に占める女性の最低比率40%を達成している(2002年は 6%だった)。厳しい罰則規定(罰金から解散処分まで)が功を奏したようだ。 女性の割合が高くなっても経済への悪影響は見られず、景気も平均以上に上昇している。男女混合チームは経済にポジティブに作用するという研究結果を裏付ける成果が見られると評価されている。 シュレーダー連邦家庭相とメルケル連邦首相は「クオータ制」に消極的であるが、欧州委員会が「クオータ制」の導入を計画しており、企業がどんなに抵抗してもいずれは導入せざるを得なくなると思われる。すでに他のEU加盟国が導入し始めている。 ドイツが経済界の負担になる制度を導入するときは、まずは企業の自発的な「任意努力」に任されるが、それは企業の時間稼ぎにすぎず、結局は法律で義務化するパターンが多い(禁煙義務化、使用済み電気・電子機器の無料回収・リサイクル処理・・・)。 ドイツの少子高齢化は急テンポで進展しており、経済界の任意努力や社会の意識改革を忍耐強く待つ余裕がなくなってきた。最終的には法制化により女性の就業、指導的立場への進出、男女格差の是正を促進するしかないのではないだろうか。 「クオータ制」は自ずと保育施設の整備、柔軟な勤務体系など、「仕事と家庭の両立」のための環境整備を促すことになるだろう。企業も真剣にならざるを得ないからだ。プレッシャーがあった方がいい。 ドイツでは、働く母親はしばしば“Rabenmutter“(薄情な母親)と謗られてきた。「カラス(Rabe)は雛の面倒をみないという俗信」からこの言葉が生まれたらしい。伝統的な役割分担の考え方、働く母親に対する偏見が依然として根強い。 思い切った「クオータ制」の導入が社会の意識変革を加速化することを期待したい。
勿論、「クオータ制」は一般企業だけでなく、政治・行政にも導入されなければならないことは言うまでもない。 (2011年6月24日)
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