オバサンの独り言

 

   ドイツの大学で授与される博士号の質が問われている。

    グッテンベルク前国防相(CSU)が論文盗用のために博士号を剥奪されてから、政治家の論文盗用疑惑が後を絶たない。

    シュトイバー前バイエルン州首相(CSU)の娘や自由民主党(FDP)のEU議員がすでに博士号を取り消されている。最近では、全国文相会議の議長を務めるニーダーザクセン州の文相(CDU)にも博士論文の盗用疑惑が浮上している。大学が調査中の案件も多いらしい。シュレーダー家庭相(CDU)の博士論文のレベルの低さも話題になった。

    連邦議会議員の中で博士号を取得している議員は自由民主党(FDP)が22人(24%)、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が51人(21%)、社会民主党(SPD)が21人(14%)、緑の党が7人(10%)、左派新党(Linke)が14人(18,5%)である。622人の議員のうち115人が博士号を取得している(18,5)

    連邦内閣では閣僚16人中11人が博士号取得者である。経済界だけでなく、政界でも博士号は昇進の有効な手段になっているようだ。

    技術進歩のお蔭で論文盗用の調査が容易になった。政治家が暴露の対象になっているのはその反響が大きいからで、政治的意図もあるのかもしれない。一般人の博士論文もすべて調査し始めたら、恐らく博士号剥奪件数は急増するだろう。

    企業の役員が部下に博士論文を書かせて博士号を取得することなどよくあることだ。寄付や名声に弱い教授もいる。博士論文を請け負うビジネスも繁盛している。

    法律事務所や企業コンサルティング会社、銀行など大手企業では博士号という肩書が物を言う。虚栄心だけでなく、昇進と所得も大きなモチベーションである。

    ある調査によると、大卒新入社員の年間所得は平均で約4万ユーロであるが、博士号取得者は5万ユーロ以上で、約25%多いという。10年以上勤務した大卒者の平均所得が7万8500ユーロであるのに対して、博士号取得者は9万5000ユーロと20%多い。

    どこの大学で、どの教授の下で、どんな内容の博士論文を書いたのかは重要ではない。非常勤教授の下で3ヶ月間で論文博士になった人もいると聞く。もちろん、専門分野によって状況は異なるし、コースドクターと論文博士の違いもあるだろう。

    これまで大学は肩書のための博士号に寛容だった。前国防相の論文盗用が暴露されたとき、「これは例外だ。博士号に対する汚辱だ」とばかりに聖域を擁護する学者や博士号取得者が多かったが、「何をいまさら・・・」と思わずにはいられなかった。2種類の博士号(研究のための博士号と肩書のための博士号)があることは周知の事実ではないか。

    最近の博士号剥奪は例外ではなく、ドイツの博士号授与制度の欠陥が表面化しただけである。ドクター学位授与権を享受している大学がその質の維持、向上を怠ってきた結果であろう。

    政府が大卒者と博士号取得者を増やす政策を進めており、大学に博士号の授与を奨励している。多くの博士号取得者を世に輩出する大学がエリート大学として高い評価を受け、多くの補助金を受けることができる。だから大学も「質より量」で、どんどん博士号を授与する。「質より量」の大学政策を推進する政治家がその政策の不備を自ら示しているのは皮肉である。

    政治家の相次ぐ博士号剥奪は政治・経済・大学の偽善も暴露した。ドイツの博士号授与制度を見直す時期に来たようだ。博士号を剥奪された政治家の博士論文指導教授の責任がうやむやにされており、大学側にも厳しい反省と改善が求められる。

    最近では、米国のエリート大学を模範にした大学院博士課程を導入する大学も増えてきた。少なくとも将来の学術研究者を養成する大学院の博士号は国際競争力のある高水準を取り戻してほしいものである。そうでなければ、優秀な人材を失うことになるだろう。

    「質より量」の政策を続ける限り、ドイツの博士号の価値は低下するばかりである。

2011年7月26日)

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