オバサンの独り言
ヴルフ連邦大統領が辞任した。国民の信頼を失い、連邦大統領職の尊厳を傷つけてしまったのだから、当然の決断といえよう。 昨年末から連日のように「地位を利用した不当利得」疑惑でメディアを賑わしたうえ、報道するメディアに圧力をかけようとしたことも明らかになっては、連邦大統領としての職務を遂行することはご本人もおっしゃる通り不可能だ。 「人のうわさも七十五日」を決め込んでいたようだが、ハノーバー地検がついに不逮捕特権停止申立に踏み切ったことで防波堤は一気に崩れた。 それにしてもニーダーザクセン州首相時代の「地位を利用した不当利得」のお粗末なこと。この人に連邦大統領の資質があるとは思えない。 再婚した夫人と子供と住む家を購入する際に知人の実業家から資金の融資を受けたり、実業家の豪華な別荘で休暇を過ごしたり、エコノミークラスからビジネスクラスにアップグレードしてもらったり、高級ホテルの宿泊費を肩代わりしてもらったり、タダで高級車をレンタルしたり・・・。 この実業家たちと州首相だったヴルフ氏の関係に汚職疑惑がでているのだ。派手好きな若い女と再婚した五十男の見栄だったのか。入れ墨入りのファーストレディーにしてあげることはできたが、めっきが剥げるのが早すぎた。 旧東独で反体制派の牧師だったガウク氏が与野党内だけでなく、国民の広い支持を受けていたにもかかわらず、ヴルフ氏を選任したメルケル連邦首相の任命責任は重い。完全なる政党政治的決定だった。自分のライバルを次々と政治権力の表舞台から遠ざけてきたメルケル首相の策略が今回は裏目に出てしまったようだ。 後任者選びが難航するのではないかと懸念されていたが、与野党の党首は人権活動家のガウク氏(72歳)を選出することで合意した。 与党は地方選挙の敗北で連邦集会における過半数の確保が厳しくなっている。連立を組む自由民主党(FDP)が不意討ちの如く、社会民主党と緑の党が推薦するガウク氏を推すことを決定したため、メルケル首相は譲歩せざるを得なくなったのである。前回の判断の誤りを認めたと取られても仕方がない。メルケル首相の敗北、心中や如何。 ところで、ヴルフ氏の辞任で浮上した問題がある。 通常、連邦大統領は5年ないし10年の任期を終えて退任すると、名誉俸給(年間19万9000ユーロ)+諸経費(事務所/秘書/運転手など年間約28万ユーロ)が終身支給される。 では、就任後20ヶ月足らずで辞任を余儀なくされた52歳のヴルフ氏にもこの「名誉俸給」なる「終身年金」が支給されるのだろうか? 法律では、「政治上あるいは健康上の理由で任期中に辞任する場合は名誉俸給及び諸経費が支給される」と規定されている。 連邦議会の議員が念のために法律専門家に調査させたところ、「ヴルフ氏は政治上あるいは健康上の理由で辞任したのではないので、名誉俸給請求権がない」という結論に至っている。 しかし、「政治上あるいは健康上の理由」が非常に曖昧な表現であり、前例もないことから判断が難しいらしい。連邦内務省スポークスマンによると、名誉俸給に関する決定権は連邦大統領庁にあるという。 与野党の首脳部では「支給すべきだ」という意見が多いようだ。社会民主党(SPD)のナーレス書記長はこのテーマの議論を「了見が狭い」と言っていたが、SPD左派のこの人は多額の税金の用途にいつからこんなに気前がよくなったのだろう。自分が連邦大統領になった時を見越しての寛大さか。 年金受給開始年齢を67歳に引き上げた国が「個人的理由」から就任後20カ月足らずで辞任に追いやられた52歳のヴルフ氏に多額の「終身年金」を支給することに何の矛盾も感じないのだろうか。
時代遅れな「名誉俸給」に関する規定を見直す絶好のチャンスではないか。大いに議論してもらいたいものである。 (2012年2月22日)
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