オバサンの独り言
連邦の差別防止機関が興味深い実験をした。 私企業5社(ドイツテレコム、ドイツポストDHL、L‘Oréal、P&G、mydays)と3つの公共機関(連邦家庭省、連邦雇用庁、ツェレ市)が就職のための応募書類を匿名化する試験的プロジェクトを1年間実施したのである。名前、年齢、性別、出身、配偶関係のような個人的情報と写真を不要とし、書類審査後の面接からこれらの情報が開示された。全部で8550を超える匿名応募があり、246人が採用された。 プロジェクトの最終評価は、「応募方法の匿名化は雇用機会均等に役立ち、しかも実践可能である」とポジティブだった。「雇用機会均等を大幅に改善する効果的かつ前途有望な試みであり、特に女性がその恩恵を受ける」としている。 例えば、高学歴/職業経験6年の30歳の女性の場合、従来の応募書類で人事部長がまず最初に見るのは「女」、「30歳」で、それからすぐに連想するのが「妊娠」、「育児休業」・・・。明らかに外国人(特にトルコやアラブ系)とわかる名前の場合は「名前」だけで落とされる。 それに対して、匿名応募書類では「十把一からげの偏見」がなくなり、資格と職業経験に焦点が当てられる。従来の応募方法で面接に呼ばれなかった移民でも匿名ならチャンスがある。 プロジェクトでは若い女性と移民が面接に呼ばれるチャンスが改善したという。人事担当者も応募者も匿名化をポジティブに評価している。 プロジェクトの結果を分析、評価した専門家によれば、「書類審査の通過が決定的な障害克服になる」。個人面接では偏見が緩和されるからだという。書類審査で落とされてしまえば、面接の機会を与えられず、競争のスタート台にも立てないというわけだ。 「応募書類の匿名化を法律で規定するのではなく、この実験結果をもとに企業、行政に働きかけ、自発的に導入させることが望ましい」と提言している。 プロジェクトに参加した企業/公共機関のうち4つの企業/公共機関は今後も応募書類の匿名化を継続するという。また、バーデン・ヴュルテンベルク州とラインラント・プファルツ州は同様の試験的プロジェクトを計画している。 応募書類の匿名化が注目されつつあるようだ。 今、ドイツでは女性の比率を割り当てるクオータ制の導入を巡って意見が二分している。 家庭相時代に両親手当を導入したフォン・デア・ライエン連邦労働大臣がクオータ制(DAX上場企業の経営中枢における女性の割合を30%にする)の導入を主張しているのに対して、後任のシュレーダー連邦家庭大臣は「自分が家庭大臣である限りクオータ制を導入しない」と明言している。 雇用、所得、昇進における男女格差を是正するためには、様々な観点からアプローチして総体的に問題解決していかなければならない。首尾一貫した姿勢が必要だ。 制度や組織を変革するときは必ず旧体制を守ろうとする大きな抵抗勢力が立ちはだかる。ましてや男性支配的な企業組織を変えようというのだから生易しいやり方では進展しない。企業や社会の意識改革を待っていても始まらない。 政治家も経済界も「自発的な任意努力」という甘い言葉で法制化の阻止を図るのが常であるが、「任意努力」で目標が達成された例しがない。法律で規定して初めて新しい制度が機能する。 私達は少子・高齢化社会における社会/企業/家庭のあり方、男女機会均等を見直す時期に来ているのではないだろうか。
勇気を持って行動しない限り、道は開けない。 (2012年4月25日)
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