オバサンの独り言

 

   今年の春は家の者が久しぶりにドイツ鉄道の長距離列車を利用した。

    夫がミュンヘンで乗ったICE(ドイツの新幹線)は約15分遅れてブレーメンに到着したが、帰りのICEはなんと約3時間も遅れた。

    原因は、驚くなかれ、架線の盗難!信じられないことだが、今やドイツもそんな御時世になったのだ。原料不足で銅価格が上昇しているため、上質の銅を含有する架線の盗難が相次いでいるという。

    1ヶ月後に再びICEでブレーメンへ。事故のため約2時間半遅れて到着。帰りは架線事故のため1時間半遅れた。

    車掌に聞いたところ、架線の盗難はドイツ鉄道の責任ではないので、3時間遅れても一部払い戻しはない。1ヶ月後の行きの事故も同様。帰りの1時間半の遅れだけはなぜかドイツ鉄道の責任なので一部払い戻しがあるとのことだった。

    しかし、一部払い戻しの手続が面倒なのである。降りた駅のインフォメーションか窓口へ行って書類をもらい、確認のスタンプを押してもらう。そして、この書類と乗車券をドイツ鉄道に郵送しなければならない。

    夫と車掌の話を聞いていた隣席の男性は一部払い戻しができることを知り、夫に礼を言ったという。乗客の方から車掌に尋ねない限り、ドイツ鉄道側からの説明はない。だから、多くの人は知らない。実に悪質な「サービス」である。3回の長時間の遅れに憤慨する夫は書類を郵送した。

    先日、今度は娘がミュンヘンからボンへICEで行ったのだが、幾つかの車両の冷房が故障したため、他の車両が大混雑したという。この日は夏のように暑い一日だったので、冷房のきかない車内はかなり蒸し暑かったらしい。せっかく指定席券を購入したのに、他の車両へ行けば、空いている席を見つけるしかない。ICEは約15分遅れてボンに到着した。

    帰りは指定席券を購入しておいたICEが遅れていたため、別ルートで帰ってきた。遅い時間帯だったので、指定席券なしでも座れたが、そうでなければ、立ち通しになるところである。

    その3日後、再びミュンヘン/ボンをICEで往復。行きは15分遅れ、帰りは45分遅れだった。乗車券の一部払い戻しは1時間以上の遅延からなので、45分では弁償はない。

    ドイツ鉄道は、「年平均で90%以上は定刻通りの運行だ」と主張している。正式には5分以上遅れると遅延と見なされる。

    しかし、今回4往復ICEを利用したが、毎回長時間の遅れや車両、架線のトラブルがあった。15分前後の遅れは当たり前だ。大雪や凍結のある冬ではなく春に、である。大事な予定が入っている時などは2、3時間の余裕を持って移動するか、前日移動するしかない。

    それにしても家の者はたまたま運が悪かったのだろうか。「90%以上が定刻通りの運行」とはなんとも不可思議な統計である。

    時間厳守のトラブルは鉄道だけでなく、空港でも発生している。

    昨年10月に予定されていたベルリン・ブランデンブルク首都新空港の開港が今年6月3日に延期されていたのだが、来年3月17日に再度延期されたのである。

    新聞報道によると、原因として挙げられた防災設備の不備だけでなく、トイレやチェックインカウンターなど他の設備もまだ完成していないことが明らかになってきた。

    防災ドアの自動開閉が期限通りに完備しない場合には、一時しのぎとして700人の人間が手動で開けることになっていたというから開いた口が塞がらない。

    ラインラント技術検査協会(TÜV)が今年2月に、「防災設備の不備のため6月3日の開港は無理」と明確に指摘していたにもかかわらず、なぜ開港ぎりぎりになって延期を発表したのか。空港会社とその監査役会(ベルリンとブランデンブルクの州首相も監査役)の管理責任は重大だ。

    他国でオリンピックや世界選手権などが開催されるときはいつも「施設が期限通りに完成しないのではないか」と揶揄するドイツとしては実にお粗末な事態となった。

    テレビのコメディーショーで、「Willy-Brandt(ヴィリー・ブラント)空港」(首都新空港の名称)が「Willy-Brennt(ヴィリー・ブレント)空港」(brennenは「燃える」という意味)になってしまったというギャグがあったが、笑い事ではない。

    鉄道にしても首都新空港にしてもドイツの「時間(期限)厳守」の信頼性が揺らいでいる。堅実だったドイツ人の労働規律の低下、怠慢なのだろうか。慢心なのだろうか・・・。

2012年5月23日)

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