オバサンの独り言

 

   戦後ドイツの移民というと、まず最初に思い浮かぶのが1955年〜1973年の高度成長期にトルコや南欧から出稼ぎに来た外国人労働者である。「Gastarbeiter」と呼ばれ、ドイツ人が嫌がる低賃金の重労働を担う労働力として経済復興を支えた。

    しかし、産業構造が変わり、少子高齢化が進むにつれて雇用市場の需要も大きく変わってきた。依然として移民=低賃金労働者のイメージが強いが、最近では若くて高学歴の専門職移民が多くなっているようだ。

    ドイツ経済研究所(IW)が1999年〜2009年にドイツに移住してきた280万人の移民を調査したところ、41%の移民には職業資格がなかったが、25歳〜64歳の移民の27%は大卒だった。大卒者の割合が顕著に上昇しているという。

    移民の約5人に1人が高度な専門知識を要する専門職ないし管理職に就いている。西欧諸国からの移民では、ほぼ2人に1人が大卒だ。欧州以外からの移民でも大卒者の割合が約27%と、ドイツ平均を上回っている。

    移民の平均年齢は33歳で、人口の平均年齢より約10歳若い。移民の約70%は25歳〜65歳で、人口に占めるこの年齢層の割合(約50%)を大きく上回っている。

    「ブルーカード」の導入により、ドイツに移住する高学歴・高資格専門職者が一層増加すると専門家は予想している。但し、国際的な専門職者獲得競争に勝つためにはさらなる移民政策を推進しなければならないという。

    少子高齢化が急速に進行しているドイツがこれまでの高い生活水準を維持し、経済競争力を確保するためには専門職移民が不可欠であることは確実だ。

    しかし、深刻化する専門職不足を専門職移民だけでは補充できないことも専門家は指摘している。従って、国内に潜在する労働力、すなわち女性、中高年者、落ちこぼれる若者の労働力を如何に活用するかが大きな課題となる。

    国内の潜在労働力の現状を見てみよう。

    同研究所によると、数学/情報科学/自然科学/技術分野の学科に進学する大学生が増えており、2011年は20万人を越えた(2005年比約60%増)。大学卒業者も2005年から2010年までに約33%増加して約10万人になった。

    だが、大学中途退学者も増えており、電気工学や機械工学では約半分の学生が中退している。

    全国文相会議と連邦教育・研究省が発表した2012年度教育報告書によると、高校卒業資格取得者と大学進学者が年々増える一方で、20歳〜30歳の年齢層の約150万人が学校卒業資格も職業教育修了資格も取得していない(約1520%)。30歳〜35歳の年齢層における職業資格のない人の割合は60歳〜65歳の年齢層よりも遥かに高い。

    女性の教育水準は継続的に上昇しているが、職業教育修了資格を取得していない若い男性の割合も増える一方である。

    過去10年間における保育施設及び学童保育施設の整備は親の就業と子供の教育向上を促した。母親が出産してから職場復帰するまでの期間が10年前よりも平均で2年短くなっている。但し、多くの母親はパートタイム勤務。資格が高ければ高いほど早く職場に復帰しているという。

    調査では、小学校入学前に最低3年間保育施設に通った子供は通わなかった子供よりも小学4年生のドイツ語力、読解力で1年先行していることが明らかになっている。保育施設の拡充は母親の就業だけでなく、子供の教育水準の向上にもつながっているようだ。

    移民家庭の子供の割合が増えており、24歳未満の児童及び青少年では23%、1歳未満児では35%を占める。専門家は報告書の中で、特に移民家庭の子供に保育施設でのドイツ語習得が必要であることを指摘して、養育手当(Betreuungsgeld:保育施設に預けずに自宅で保育する親に支給される手当)の導入を批判している。

    養育手当の予算を3歳未満児の保育施設の整備、質の改善に投入すべきだという。旧東独では3歳未満児の47%が保育施設に通っているが、旧西独では依然として20%に過ぎない。

    このような状況下、企業は専門職不足を手っ取り早く外国からの専門職移民で解決しようとしており、国内潜在労働力の徹底した活用が二の次になっているように思われる。

    高学歴の女性を活用しないのも、豊富な経験、優れた技巧、高度な専門知識をもつ中高年者を早期退職させ、再就職のチャンスを与えないのも、せっかく大学に入ったのに中退する学生が多いのも、職業教育を中途で辞めてしまう若者が多いのも人的資源の浪費であり、税金の無駄遣いである。

    仕事と家庭の両立を可能にする職場環境の構築、男女雇用機会均等の実践、中高年者の技能・知識を活用する職場の創出は、労使がこれまでの常識を破って、柔軟な頭で発想の転換をしない限り実現できないだろう。

    保育施設、小学校、中学、高校、職業教育、大学、すべての過程において「質より量」ではなく、質の向上を図る教育政策を徹底しない限り、専門職者を養成することはできないだろう。

    専門職移民と国内潜在労働力の活用を並行して推進しなければ、ドイツ経済は縮小するばかりである。豊かな少子高齢化社会を築くためには長期的展望に立った雇用政策、移民政策、教育政策の総合的な舵取りが求められている。

    では、ドイツ以上に少子高齢化が進んでいる日本はどんな未来像を描いているのだろうか。 

 2012年7月19日)

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