オバサンの独り言

 

   ミュンヘンにもようやく春が来た。

    久しぶりに散歩していたら、あちこちで古い家が取り壊され、新しい家が建っていたので驚いた。

    あのお婆さん、お爺さんはどうしたのだろう。亡くなられたのか、それとも介護施設に入所したのか。春になると、よく庭仕事をしていたのに・・・。

    戦後、ドイツは目覚ましい経済復興を遂げ、豊かになった。社会保険制度も整備された。それを支えてきた世代は相応の貯えがあり、年金で静かな余生を送ってきた。

    贅沢せずに勤勉に生きてきた彼らは浪費することなく、財産を子供達に残していく。子供の世代、すなわち今の50代、60代の人達はまだ親の遺産を相続できる裕福な世代である。

    私の周囲にも親の遺産を相続する人が多くなった。質素に生活していた親の遺産が予想以上に多かったので驚いたという人が意外に多い。

    しかし、今の若い世代はもう親の遺産を頼りにできない。少子高齢化の時代にはこれまでの充実した社会保険制度の維持が期待できそうにないからだ。年金は減り、自己負担が増える。長生きする親は自分の老後に貯えを使い果たしていく。

    親も国も頼りにできない世代は今から自分の老後のために貯蓄しなければならないということだ。

    財産といえば、先日、欧州中央銀行が興味深い調査結果を発表した。ユーロ圏15カ国(アイルランドとエストニアを除く)の個人財産を比較したところ、2010年の1世帯当たり個人財産(実質)の平均がドイツは195200ユーロで、9位だった。ユーロ圏の平均は231000ユーロ。

    中央値(メディアン)ではなんと、ドイツは51400ユーロで最下位。ユーロ圏平均は109000ユーロ。

    さらに驚いたことには、財政危機に陥り、資金援助を受けているキプロスの個人財産の平均が67900ユーロで2位、中央値でも266900ユーロで2位だったのだ。

    同様に財政危機状態にあるスペインは291400ユーロ(5位)/183000ユーロ(5位)、イタリアは275200ユーロ(6位)/174000ユーロ(6位)と、ドイツを大きく上回っている。ちなみに、1位はルクセンブルクで71万ユーロ/398000ユーロだった。

    ドイツの持家率は44%で最下位。キプロスは77%、スペインは83%、イタリアは69%、ユーロ圏平均は60%。

    専門家は、ドイツでは社会保険制度が充実していること、小世帯(平均で2,04人)であること(南欧は大世帯が多く、キプロスは2,76人。ユーロ圏平均は2,32人)、持家が少ないこと、2010年は財政危機の国がまだ不動産ブームにあったことなどを指摘するが、それを考慮しても予想外の結果である。

    ユーロ圏内で最大の資金援助国であるドイツがその援助を受けている財政破綻国よりも個人財産がはるかに少ないという調査結果は、欧州中央銀行もさすがにキプロス財政支援策で合意するまでは発表できなかったようだ。

    ドイツの若い世代は親たちの古き良き時代「経済大国ドイツ」という思い込みから目覚めて、現実的な人生設計を立て、次の世代交代に備えなければならない。彼らの負担は重くなるばかりなのだから。

    我が家の隣に住んでいた老婦人姉妹がこの冬、介護施設に入所した。やっと春になったのに、ベランダに座ってお茶を飲みながら新聞を読む二人の姿はもう見られない。

    ここにもいつか新しい家が建つのだろう。

 2013年4月26日)

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