オバサンの独り言

 

  ドイツでも子供の手書き能力が低下しているようだ。字が下手、判読不能、書くのが遅い、手が痛くなる・・・。問題なく30分以上手書きすることができる中学・高校生は30%にすぎないという調査結果には驚いた。

    また、ドイツ教員連盟が、基本語彙の減少、多肢選択法のテスト、穴埋めテスト、コピーの増加などを指摘して、学習水準をどんどん低下させる「ゆとり教育」を批判していること、小学校におけるデジタルメディア(媒体)の投入を評価していないことも興味深い。

    現在、バイエルン州の司法試験(第二次司法試験)の筆記試験は 15時間の論述試験で、全部で11日間という長期戦だ。受験者は毎日 5時間、ひたすら手で書き続けるのである。

    将来、手書き能力が低下した若者がこのような長時間の筆記試験に耐えられるのだろうか。それとも、米国の司法試験のようにパソコンで書く日がまもなく来るのだろうか。

    パソコンや携帯電話などの電子機器が普及し、学校以外では手書きの機会が少なくなっている現代社会では、手書き能力の低下は世界的な社会現象のようである。 

    これは子供たちだけの問題ではない。手書きで育った世代でさえも書く力が衰えていると感じている。デジタル化社会における手書き能力の維持は容易ではない。

    手書き世代の私は、昔、清書のアルバイトをしたことがある。今の若者には想像もつかないことだろう。日本語の翻訳もすべて手書きだった。だから、ワードプロセッサを購入したときは、本当に感激した。仕事が一気にスピードアップしたものである。

    パソコン、プリンター、コピー機、ファクシミリ、スキャナー、タブレット、携帯電話、電子辞書、電子ブック・・・と、新しい電子機器が登場するたびに、便利になり、私たちの生活様式が変わった。

    そして、社会を根本から変えてしまったのは、何と言ってもインターネットだろう。今では、インターネットのない生活は考えられない。デジタル化の発展は実に目覚しい。

    しかし、なんでもメールでやり取りするようになってから、手紙やハガキを書く機会がほとんどなくなったし、電話することも少なくなった。手で書くことが面倒になり、書く能力が衰えたと実感している。

    いつでもどこでも簡単にインターネットで検索できるので、書き留めておくとか、しっかり覚えておくという意欲も薄れ、集中力や記憶力も低下しているように思われる。

    これもインターネットからの受け売り情報なのだが、専門家によると、繰り返し手書きすることで、脳も活性化するらしい。指先の繊細な動きが脳への刺激になるのだという。しかも、キーボードを打つよりも手書きの方が繊細な動きなのでいいのだそうだ。

    だから、専門家は脳の育成のために家庭や学校で子供たちに手書きをしっかり教えることを推奨している。そして、大人には脳の老化対策として手書きの大切さを指摘している。

    最近、飛行機の中で親が幼児に絵本ではなく、タブレットを与える光景を目にすることが多くなった。私たちは本の紙のページをめくるという指先の繊細な動きさえ、いつか忘れてしまうのだろうか。

    いや、そんなに悲観的になる必要はないのかもしれない。両方の親指を巧みに使って小さな携帯電話でメールを書いている若者たちを見ていると、その器用な素早い動きに感心してしまう。スキルは練習の賜物だ。何事も繰り返し練習すれば向上する。

    デジタル化社会における利便性の恩恵と人間本来の能力の育成・維持のバランスは現代社会の大きな課題である。

    使わない能力は衰えていくことを肝に銘じて、日常生活を見直してみたいと思う。

 2015年4月21日)

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