介護グループ

◆「ミュンヘン友の会―日本人の老後を支えるネットワーク e.V.」

 

家庭介護の基本

- お年寄りを中心として ―

はじめに

 私たちは誰でも介護しなければならない状況になったり、介護を受ける側になったりすることが予測されます。そんな時、少しでも介護に関する知識があればいざという時に役立つと考え、家庭内の介護、その中でも特にお年寄りに焦点を当てて基本的なことについて勉強会をしました。また、その基本技術について多少の実技演習もしました。

 そのまとめを下記の目次に沿ってこのホームページに掲載していきます。Ⅰ.家庭介護の理解を西川が、Ⅱ.在宅介護の基本技術を各グループメンバーがそれぞれ担当し、まとめました。

 

目 次

. 家庭介護の理解

1. 家庭介護の基本原則

2. ゆとりのある介護を進めるために (介護者の健康管理)

1) 介護する側の健康管理

2) お年寄りの心と体の理解

(西川)

 

. 在宅介護の基本技術

1. 介護の心構え (西川)

2. 快眠の工夫と寝具 (ケルテル)

3. 食事の工夫と介護 (ロスラー)

4. 排泄の自立と介護 (イエガー)

5. からだを清潔に保つ (河田)

6. からだの移動とリハビリテーション (エルンスト)

 

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. 家庭介護の理解

 家庭介護の基本原則

 健康であれば日常生活の食事、排泄、入浴などは自分でできますが、病気やケガ、また高齢になって心身ともに機能が衰えた場合は誰かの手を借りなければなりません。ふだん何気なく自分でできる排泄や入浴を他人の手にゆだねなければならないことはとても辛いことです。この場合、介護をする人、される人の相互の信頼関係が要求されます。

 そこで、介護をしていくための基本原則を7項目あげました。

1. 各々の人には生きた歴史があるので、介護する人の生い立ちや、その人の価値観及び本人の意思を尊重して接する。

2. まず、安全であることを心がけ、介護を受ける人が心地よいと感ずる手助けを提供する。

3. 介護される人が持っている能力を十分発揮できるよう手助けし、日常生活行為の自立性を高める。「手は出し過ぎず、目は離さず」

4. 食事の量や排泄などを綿密に観察し、異常を早く見つけ、現状を悪化させない。

5. ささやかなことでも、生きがいが持てるよう、家庭内での役割が見出せるようはたらきかける。

6. 外気に触れる機会を多くし、また積極的に家庭以外の人々との交流がもてるようにする。

7. 地域の制度やサービスを知り、公的機関を大いに活用する。

(2007年9月26日)

 

2. ゆとりのある介護を進めるために(介護者の健康管理

 介護する人自身が健康管理をしっかりして、心と体を良好な状態にしておかなければ、ゆとりのある介護はできません。「介護者がまず健康であること」が大切です。

1) 介護する側の健康管理

① 食事・運動・休息を心がけた生活

食 事

 食事は3食、栄養バランスよく、規則正しく食べる。

適度の運動

 介護や家事で体を動かしていても使う筋肉が違うので、体操をして使っていない筋肉を意識して動かす。

休 息

 疲れたら無理をせず、十分に休養する。睡眠時間は自分が必要と思われる時間を確保し、体内時計を狂わせないために、できれば12時前に床につく。

② ゆとりある気持ちで介護ができるよう心がける

* 気の合う友達などに話をきいてもらい、気分転換を上手にする。

* 取り越し苦労をせず、プラス思考で物事をとらえる。

* 自分の健康状態に気を配り、健康診断を定期的に受ける。

* 疲れたり、介護の方法で悩んだりした時は、一人で頑張らず、地域の専門スタッフに相談する。

③ 身体を支えたり、トイレなどを介助する際、介護者はボディメカニックス(作業姿勢が過度に腰に負担がかからないための原則)を活用して、腰痛などを予防する

* 重心を低くし、基底面を広くとる。

* 重心の移動をなめらかに行なう。

* テコの原理を利用する。

* 受け手に近づき、背骨を正常に伸ばし、重心のバランスをとり、大きい筋群を用いる。

* 必要な物品を手順よく置き、効率よく行なう。

④ 相互の感染予防

* 介護者に接する時は専用エプロンを使用する。

* 介護者に接する前後は手を洗うことを習慣づける(“出しっぱなしの水道水”と石鹸で洗う。指の間も組み合わせるようにしてこすり、手首まで丁寧に洗う)。

 

笑顔で介護するための介護者のチェックポイント

* よく眠れましたか。

* 食事がおいしいですか。

* 食事のバランスはとれていますか。

* 便通がよく、快調ですか。

* 軽い運動や散歩で外気に触れることができましたか。

* 気晴らしの時間が持てましたか。

* 家族以外の友人などと会話ができましたか。

* 介護者とよい会話ができましたか。

* 自分一人で頑張ろうとしていませんか。

20071029日)

 

2) お年寄りの心と体の理解

老化現象(生理的加齢現象)

 老化とは、成熟した身体の機能が加齢に伴い、何人であろうと少しずつ衰えていくことをいいます。これは個人差が大きいことが特徴で、年齢が高くなるほどその差が大きくなります。生活習慣病やストレスなどがあると加速します。

1. 身体面の変化

* 呼吸器・循環器・消化器など内臓の機能が低下する。

 加齢とともに、以下の条件で呼吸器の低下、特に風邪の時など肺炎に進みやすいので注意が必要。

     腹筋が弱くなり、背中をまるめた姿勢(猫背)になる。

     呼吸をする筋肉が弱まることなどから肺胞のガス交換効率が悪くなる。

     免疫機能も低下しているので、細菌やウイルスにおかされやすい(呼吸器は身体の中では唯一外界とつながっており、直接空気を吸い込んでいる)。

* 骨がもろくなる(骨粗しょう症)。

 骨折(大腿骨骨折が多い)しやすく、それを機に寝たきりになりやすい。

* 全身の筋肉が弱くなる。

 筋力が弱まるため、身体を動かすのがおっくうになり、それがまた筋力を弱め、転倒しやすくなる。身体を動かすことで骨を強くし、骨折も防ぐので、適度の運動が大切である。

* 感覚器が鈍くなる。

 味覚…味の感じが鈍るため、塩辛いものや甘味の強いものを食べがちになる。昆布、鰹ぶしなどで味付けを工夫する。

 聴覚…高い音が聴き取りにくくなる。話しかけるときは低く、ゆっくりと。

 視覚…全体に見えにくい(特に白内障)夜間の廊下、トイレの照明は明るく

 嗅覚・触覚…鍋のかけ忘れ、ガス漏れ、ゆたんぽや使捨てカイロなど低温火傷に注意。

2. 精神面の変化

* 円満になる。

* 長い経験から判断力が豊かになる。

* 身体の衰えに加えて自信喪失となり、気力を失いがちとなる。

* 環境の変化に対応が難しくなる。

* 孤独感、憂鬱、絶望になりがち。引き金となる原因不明のときは老人性うつ病のこともあるので、適切な対応が必要である。

* 脳血管障害などによる痴呆になりやすい。

3. お年寄りへの接し方

* 自尊心を傷つけない。

 それぞれ歩んできた人生経験を尊重する。自分の主義・主張が「頑固」ととられがちである。

* 会話する時は聞き上手になる。

 相手の目をよく見て心を通わせる。床に寝付いている場合は椅子にかけたり、腰を落としたりして目の高さを同じくする。

* お年よりのペースに合わせる。

 機能低下により動作が緩慢となるが、お年寄りにとっては自分のペースである。介護者はつい手を出しがちだが、お年寄りがやり終わるまで待ち、急がせたり手伝ったりしない。急がすと混乱して、ますます出来なくなることがある(特に着替え・食事)。

* 思いやりのある対応。

 軽く背中や腕をマッサージする、散歩の時に手をとる、なにげなく髪を整えてあげる、寝具をおさえて寒くないようにするなど、ちょっとしたスキンシップは言葉に増して嬉しいもの。

20071210日)

 

. 在宅介護の基本技術

1. 介護の心構え

 介護とその基本技術について知っておくことがいざという時のヒントになります。家庭内の介護では、日常使って慣れ親しんでいるものも取り入れ、介護される人もする人も心が満たされるようにゆとりを持って、疲れてしまわないように心がけていきましょう。

 

2. 快眠の工夫と寝具

1. 部屋

* 病気や寝たきりになると、寝ている部屋は生活の場となる。

* ドアと窓が目に入るように工夫する。

* 快適と感じる温度は21度前後。

* 湿度60%ぐらいに設定する。

* こまめに換気する。

2. 寝具

* 下は適当な固さが良いが、ムートンを敷くと自然な湿度や温度が保てる。

* 上は軽くて暖かい羽根布団が適している。

3. 寝具

* シーツは綿がよい。化学繊維は床ずれを起こしやすい。

* パジャマは吸湿性がよく、着脱が楽なものがよい。

* 動けるようであれば、着替えて身だしなみを整え、一日のはりをつける。

実演:    ベット上で行なうシーツと寝巻きの交換

 

3. 食事の工夫と介護

 食事は身体に栄養を与え、生命を維持するために大切なものです。お年寄りや病気の人にとっては、予備力が無い分、一食一食が大切な糧となります。特に、お年寄りは年とともに食欲が落ちてきます。その原因として、精神的理由(孤独、孤立、環境不適合)、器質的理由(失歯、運動不足)、病気(口内炎、胃腸の病気など)があります。その反面、食べることが数少ない楽しみの一つになります。毎日の食事がおいしくいただけるようにお世話を考えていきたいものです。

バランス良く

* その人の好き嫌いを尊重するものの長年の食習慣でバランスがくずれがちになるので、献立などを相談しながら計画的に作る。

* 歯が悪くなり、消化力が衰えるので、料理法、量、色彩などに工夫をこらし、食欲をそそるようにする。

* 毎日少しずつ多種類の食品を摂るようにする。

* バランスのとれたビタミン含有量の多い野菜を摂るようにする(免疫組織と抵抗力をつける)。

* 年とともに骨がもろくなるので、カルシュウムを十分摂る。

塩分と水分の摂り方に注意

1. 塩分と水分のとり方に注意

* 味覚が衰えて味の濃いものになりがちなので、塩分の取り方に注意が必要。特に高血圧や心臓病のお年寄りには要注意。

* お年寄りは水分が不足すると脱水症状に陥り、大事に到ることがあるので、意識して水分を摂るようにする。特に発熱や下痢がある時は要注意。

2.   ゆっくり、よくかんで

* 唾液の分泌が少なくなり、かむ力が若い人の 3分の1から 4分の1になるといわれています。ゆっくり十分時間をかけて飲み込むようにしないと、むせったり、嚥下困難になったりして危険です。

座位で食事の介助をする場合

食前の準備

* 生活のめりはりをつけるためにも、ベットを清潔に保つ上でも、食事はなるべく食卓に着いて食べるようにする。

* まず上半身を立てた楽な姿勢にし、間にクッション等を差し込み安定させる。

* 安定した姿勢がとれたら上半身を起こし、少し前かがみの姿勢をとる。そっくり返った姿勢だと誤嚥を起こすため。

* 食べる前に手を洗う。

* 食べ物をこぼしてもよいように、首にナプキン、膝にタオルなどを敷く。リラックスして食べられるように、ペースに合わせてゆっくり口に運び、汁物と固形物は交互にとるようにしましょう。

* 食物の温度に気をつける(温かいものは温かく、冷たいものは冷たくしてすすめる)。

* なるべく自分で食べられるようにし、必要以上に手伝わない。

ペースに合せてゆっくり口に運び、汁物と固形物を交互に摂る

* 介助者はなるべく目の高さが同じになるように座り、顔と顔を見合わせ、笑顔で対応する。

* 食欲をそそるように盛り付けを見せ、「どれにしましょうか」などと声をかけながら、一匙ひとさじゆっくり口に運び、飲み込んだことを確かめ、次をすすめるようにしましょう。

* 飲み込みをよくするため、汁物と固形物は交互にすすめるといいが、とろみをつけ、滑らかな舌触りにする工夫もしましょう。

誤飲による事故を防ぐ

むせに注意

* 汁物はむせやすいので、飲み込みをあわてさせない。「ゆっくりどうぞ」と声をかける。

* 飲みにくい場合、吸い飲みやストロー付きのカップを用いる。

* 酢の物・果物など酸味の強い食べ物もむせやすいので注意 。

窒息に注意

* 肉や根菜の人参、大根は切り方に注意してゆっくり味わってもらう。

* お餅・海苔・海草類・パンや煎餅はのどにつかえることがあり、また張り付いたりするので特に注意しましょう。必ず食べる前に汁物やお茶をすすめる。

飲み込みの練習

年をとると、噛む力や飲み込む力が弱くなります。無表情で食事をしているうち飲み込むタイミングがうまくいかなかったりするので、時々口の運動をする。

1. 声を出しながら、口を大きく開けたり閉じたりする。

2. 口をできるだけ大きく開いて「あいうえお」と言ってみる。

3. 舌を思いっきり出したり入れたりしてみる。

4. 唇を閉じたり、突き出したり、戻したりする。

5. ストローを使ってジュースや牛乳を飲むようにする(口の回りの筋肉を鍛える)。

2008415日)

 

4.  身体を清潔に保つ

  身体を清潔にすることは血行を促し、感染や床ずれを予防して皮膚の生理機能を高めるので、おろそかにできない日常生活の一部です。清潔で身ぎれいになれば明るい気持になり、対人関係まで好転するかもしれません。しかし、洗顔、洗髪、髪のセット、衣服の着脱、手足の手入れ、口腔と義歯のケア、耳、皮膚、陰部を清潔に保つために介助を必要とする場合、そして何といっても自力で入浴できなくなった場合が問題になります。

  病院や老人介護施設には、一般浴の他に機械浴する施設があり、介護する人も訓練を受けたプロですが、自宅で入浴の介助をする場合には、事故防止のために一人より二人で介助する方が安全です。

  しかし、介助を受ける人の羞恥心やプライバシーへの配慮を常に頭におき、快適に入浴してもらうように接したいので、お風呂場や洗面所がそのような条件に対応できる設備になっていない住宅では、根本的に考えてみる必要があります。できたら四十代、五十代のうちにバリアフリーの住環境を整えておくことが、将来介助が必要になった場合にも、なるべく長く自宅で暮らせるための準備なのではないでしょうか。  

  軽度の介助を受ければ、自宅での暮らしが可能な人は専門家を利用してはどうでしょうか。ドイツには、足の手入れや治療を仕事にするFusspflegerPodologenがたくさんいます。例えばミュンヘンでは、電話帳に約140件の名前と電話番号が出ており、中には自宅訪問をしてくれるところも明記されています。糖尿病患者に対しては、健康保険で足の手入れや治療費を負担する場合もあるそうです。

  Kosmetikstudioに関しては、更に幅の広い情報が電話帳やインターネットにでていますから、各々の希望に沿ってよいアドレスを見つけられるでしょう。その他、Medizinische Bäder, Massageを含めて、Physiotherapie等身体の清潔と健康度のレベルアップを助ける人達が働いています。費用は自己負担の場合と、健康保険が負担し、小額の自己負担ですむ場合などいろいろです。

  ちなみに、日本では1999年に福祉、医療、看護、美容などの専門家たちが日本美容福祉学会を設立し、美容福祉の研究や普及に本格的に取り組みはじめました。東京の山野美容芸術短期大学に美容福祉科が開設されたのもこの年で、現在、全国に231人の美容福祉師が働いています。

  美容福祉とは、高齢や病気、障害を得ても、その人がそれまでしてきたように、きれいでいたいという思いに応える手だてのこと。髪を整え、化粧を施すことで、自尊心や自信が引き出され、人から好意的に受け入れられるなど、生き甲斐や生きる意欲を見出していくきっかけになるので、お年よりの心の問題、対人関係向上に重要な役割を果たすのでは、と期待されます。

  さて、老化や病状が進み、自力で身体を清潔に保てない場合ですが、私達介護の勉強をしている者は、身体保清の介助についてある程度の基本知識をわきまえておきたいと思います。これ以下は介護福祉士養成講座のテキストを参考にしました。

  • 先ず入浴や清拭を始める前に、相手の了解を得、方法について説明と確認を行なう。

  • 着替え等を用意し、手の届きやすい場所に必要物品を準備する間に排泄をすませてもらう。

  • 室温は23-25℃ぐらいに暖め、すきま風や直射日光を防ぐ工夫をする。

  • 食事の前後一時間は避ける。

  • 発疹、外傷、浮腫、運動障害など全身状態をチェックしながら、話しかけて適当なコミュニケーションをとりながら手早く行う。

  • 自分でできるところ、顔や陰部などは自分でふいてもらう。

  • 身体を濡れたタオルで拭くと、皮膚表面の温度が急に下がるので、必要な部分以外はタオルケットなどでおおいながら手順に従う。

  • 拭く部分を蒸すようにあたためる。絞ったタオルの温度がぬるすぎたり、熱すぎないように注意する。

  • 泡立て石鹸で拭いた後、蒸しタオルで二度拭きする。

  • 乾いたタオルで水分を拭き取る。

  • 平均した圧力で滑らかに拭き、四肢は抹消から中枢に拭くのが原則。

  • 蒸しタオルは多量に用意し、ビニール袋や発砲スチロール容器、保温気を利用し冷めないようにする。多量の蒸しタオルをつくる場合は、電子レンジを利用すると便利。

  衣類の選択と着脱の介助もこの項のテーマとして組み入れることができます。しかし、本人の状態、病状の進行度によって個人差がありますし、身だしなみ、装いにかける費用も、その人の経済力が関係することでもあり、一概に基準を決められるものではありません。寝たきりの場合は、上着は前開きのものが着脱に容易でしょうが、症状が軽い人はトレーニングシャツ、パンツなどのほうが、活動しやすいでしょう。車椅子で移動する人には膝掛け、肩掛けが必需品となります。肌にやさしく洗濯しやすい材質のもので、本人の好みにあった色やデザインを選び、高齢になってもおしゃれ心を忘れない日々をすごしてもらうお手伝いをしたいものです。

2008520日)

 

5. 排泄の自立と介護

  老人や病人にとって排泄の始末を自分でできないことは非常につらいことです。特にお年寄りは老化現象に困惑して心の平常を失い、それだけで無気力状態になりがちです。排泄の世話をする上では、何よりもお年寄りや病人のつらい気持を理解すること、加齢による排泄の特徴を知ることが大切です。

1.  排泄援助に際しての心構え

   日頃の排泄習慣を知っておく。

   摂取量と排泄量のバランスを常に観察、把握していること。

   病人やお年寄りの状態にあった方法を選ぶ。

   プライバシーを守る。

   清潔の保持とこまかい観察(皮膚のかぶれ・ただれ・床ずれの発症等)。 

2.2. 老人の排泄機能の特徴

   排泄回数が多くなる(腎臓機能の低下により、特に夜間の尿量が昼間より多い)。

   少しの量でも尿意がある(膀胱の容量が若い時より少なくなる)。

   排尿後に残尿感がある(膀胱などの器官の弾力がなくなる)。

   咳、くしゃみ、笑った時などちょっとしたことで尿が漏れることがある(膀胱の筋肉が緩みやすい)。

   排便では便秘や下痢になりやすい(腸の運動が悪くなる)。

   排泄一般に時間がかかる。 

3. 自立度に合せたお世話

時間がかかっても自分でトイレに行ける場合

   伝い歩きや車椅子の使用に邪魔にならないよう、付近の障害物をなくす。

   夜間は足元を明るくする。

   歩くのが大変な時は夜間だけポータブルトイレ(Toilettenstuhl)を使うのも一方法。

  外出が可能な状態であれば、「失禁パンツ・パット・サポーター」などを大いに活用してどんどん外出しましょう。

一部介助が必要な場合

   支えがあれば歩ける場合はトイレに連れて行き便座に座らせるか、長めの歩行が無理でも上体を起こして座るのが可能ならばポータブルトイレを使うのがよい。(腰をかけると腹圧がかかって筋肉に力が入れやすく、格段に排泄しやすくなる)。

   上体を起こすことができないが、寝返りや腰を上げることができる場合は、尿器や便器で介助する。

  尿意や便意を感じサインを送れるうちはできるだけオムツを使わず、排尿の感覚や機能を維持することが大切(清潔、自尊心の保持、認知症を予防する上で非常に重要)。 

4.  オムツの使用

  オムツを使用することは、特にお年寄りにとって大きなショックであり、自尊心を傷つけられて気力を失い、認知症が急速に進む原因になる。また、筋力が衰えて寝たきりになるきっかけにもなる。オムツの使用は以下のような状態の場合に限り、最後の手段と心得ること。

   尿意、便意がない。

   下半身が麻痺している。

   お漏らしがひんぱんである(特に夜間等)。

   認知症が進んで排泄物をいじる。

  オムツの使用については医師、介護の専門家の意見やアドバイスを受け、本人も納得した上で慎重に行なうこと。少しでも快方に向かう場合は早いうちに自然排尿をするための訓練(Kontinenz-Toiletten-Training)をすることを、被介護者、介護者共に心得ておくこと。

5.  陰部の保清

  陰部は不潔になりやすく、尿道、膀胱炎や皮膚炎の原因になるため、一番清潔に保ちたい部位です。排泄の後はもちろんのこと、毎日の保清として行う。

陰部の清拭

   専用のタオル、洗い桶、使い捨て手袋などを用意して、なるべく自分で行なってもらう。

自分でできない場合は、基本的に常に陰部の前から後に向って拭き取る。男性の場合は陰茎の皺の間の汚れを拭き取る。肛門の回りも念入りに拭き摂る。

陰部の洗浄

   ポータブルトイレを使用する場合は、自分でできる人には石鹸をつけたガーゼか小タオルを渡して、洗ってもらう。

   寝たままの洗浄は、腰の下にビニールやバスタオルを敷いて差込み便器を使用する。上体が少し起きるようにベッドを調整し、バスタオルを折って腰の下にあてがい、水の逆流を防ぐ。同様にガーゼと小タオルで念入りに洗い、シャワーボトル(洗剤の空容器を使ってもよい)で湯をかけて洗い流す。

   水分を十分拭き取った後、皮膚が乾燥しているようならば、Pflege用ローションなどを使って軽くすり込むようにするとよい。

   皮膚の炎症、裂傷等等の異常に常に注意し、異常を見つけたら、速やかに専門医に診てもらうこと。

  老人や病人の羞恥心やつらい気持を十分理解して、機械的に済まそうとせず、常に優しい気持と会話で接すること。

6.  自然排尿、排便が困難な場合

  下剤、内服薬、座薬、浣腸などの使用、摘便などの方法があるが、これらは、医師、看護師などの専門家に相談すること。

2008610日)

 

 

6.寝床上での体位・姿勢交換と床ずれの対応

 症状によって寝たままで過ごすことによって起こるさまざまな弊害を予防するために、体位を交換して血液循環を良くし、肺や筋肉を衰えさせないようにすることが大切です。寝たきりになるのを防ぐためには、病状の回復と共に、出来るだけ早く座る姿勢をとり、徐々に自立へ導くことが大切です。姿勢交換、体位交換はボディメカニクスという方法を使います。これは、患者と介護人の両方がお互いの体のメカニズムを利用して、看護の力仕事や疲労を軽減する方法です。

体位姿勢交換の時点で注意すること

事前の確認

  • 患者が寝たきりか、一日の大半を寝ているかなので、いつからか、なぜそうなったのか、身体状態を確認。

  • 今後の方針を家族と話し合う。医師の指示をも確認。

実施時の確認

  • 床ずれの有無。床ずれがある場合は専門家に治療してもらう。

  • 姿勢保持のためのタオル、クッションを用意する。

  • 吐き気、めまいの確認、具合を尋ねる。無理をさせない。

事後の確認

  • 表情、顔色の観察、声をかけたりして状態の確認。

  • 長く寝たきりの人は、起こされた場合、起立性低血圧のショックを起こすことがあるので、座っている間はずっとそばで観察する。顔面蒼白、吐き気、冷や汗などの症状がでた場合は、すぐもとの姿勢に戻す。

介護のポイントと気をつけること

  • 本人の能力を引き出すため、むやみに手を出さず、上手に励ます。ゆっくり待つ。

  • 寝込んでしまったら出来るだけ早く座れるような生活に戻し、自立へと導く。

  • 患者の身体を動かす場合は意識のはっきりしない人、耳の遠い人でも必ず声をかけてから動かす。

  • 麻痺、障害、苦痛を考慮し、安全、安楽を保つようにする。

  • 患側が下にならないようにする。

  • 寝巻きやシーツにしわをつくらない。

20088 25日)

 

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